医療経営プロフェッショナル柴田雄一「ニューハンプシャーMC」

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「持分なし医療法人」はいかがですか!? ③ (73)

出過ぎた利益

最近、多くの医師を顧客に持つある保険外交員から、その顧客となる個人診療所の決算書をチェックしてほしいと依頼がありました。開業して30年近く経っており、現在は親子2人体制にて診療している診療所です。その年間売上は3億円に迫るまでになっています。また大きな投資もなく、利益もそれ相応額が計上されている状況です。よってチェックといっても、財務的には順調です。 

ただし依頼における論点は、出ている利益となります。当然ながら利益を多く生み出すと、その分の納税が発生します。そこで、すぐに思いつくものが、医療法人化による個人と法人の課税割合の違いを利用した節税対策となります。とはいうものの、特別な理由があるわけでもなくこの診療所は法人化せずに個人事業として続けてきました。税理士からの助言もなかったと聞きます。税理士もさまざまで、毎月の記帳と決算書をつくるだけのところも少なくありません。実のところ、節税に対する助言をサービスとして捉えていないことも意外に多いのです。そういった税理士に依頼しているのであれば、開業医のほうから能動的に相談しなければ、答えも提案もしてはくれません。この診療所レベルの利益が出ているところの多くは、2007年の医療法改正直前に法人格を取得してきました。しかし、そのような提案がなかったためか、個人のままで現在に至っています。いずれにしても、この個人開業医に対して、医療法人にすべきか否かの意見を求められることとなりました。

 旧法の「持分あり」の医療法人取得では、シンプルに節税という分かりやすいメリットがありました。一方で、小さなデメリットはあるにしても、メリットを上回るほどの大きなデメリットは見当たらず、説明もシンプルなものでした。しかし、「持分なし」の医療法人となれば、解散時に法人に残った資産が個人に帰属しなくなります。つまり、メリットを上回るかもしれないデメリットが出てきたのです。 

法人化のメリット・デメリット

個人事業から医療法人になったときに何が一番変わるのでしょうか。それは、個人と法人として全く別の“人格”扱いとなることです。サイフも別となります。つまり、診療所で得られた医業収入は、今までは院長個人のものですが、法人化後は法人のもとなります。そして院長個人の収入源が医業収入ではなく、医療法人からの給与所得となります。とはいえ、適用する税制や医療法、その他法律などが変わるだけで、法人化したからといって日々の業務に大きな変化はありません。 

ここで、現行法での医療法人化による一般的なメリットとデメリットをそれぞれ示していきます。 

〇メリット 
・本人家族などへ給与支払での所得分散での節税 
・本人家族への退職金の支給 
・法人と個人の人格および財務の明確な区分化 
・医療・介護施設などの複数展開 
・生前贈与による相続税対策 
・社会的信用力 
〇デメリット 
・解散時には資産が国などへ帰属 
・利益配当が不可 
・社会保険の加入義務の発生 
・交際費損金算入可能額の制限 
・提出書類の煩雑化 
・法人としての規制強化 

この他によくある質問が、法人化のタイミングです。節税目的だけで見るならば、医師優遇税制ともいわれる概算経費率の適用範囲である診療報酬5000万円/年を超えたとき、そして所得税率33%となったときが目安となります。繰り返しになりますが、「持分なし」というデメリットがあるため、医療法人に資産をなるべく残さないといった節税対策も場合によっては必要になります。節税だけでない法人化のメリットもあるので、いろいろな角度から検討してみてください。 

株式会社ニューハンプシャーMC 
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一