医療経営プロフェッショナル柴田雄一「ニューハンプシャーMC」

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夢と魔法の国の「待ち時間」 (52)

待ち時間をつくらない仕掛け

「夢と魔法の国」、ディズニーランド。園内の隅々までに行き渡るその理念通りの園内、子どものみならず大人までも虜にするアトラクションやエンターテイメントの数々で非日常世界へ誘う、説明不要の日本で最も集客力のある施設です。だからこその欠点は“混雑”。平日、休日関係なく、いつでもどこでも人だらけ……。人気アトラクションともなれば2時間待ちなど当たり前、ポップコーンを買うのでさえも列に並ばなければなりません。つまりディズニーランドに滞在しているほとんどを“待っている時間”に費やしているともいえます。世の中のほとんどすべての“待ち時間”は、ない方がよいものです。しかし、それでも人はリピーター客として何度も何度も足を運ぶ、それだけ魅力のあるテーマパークです。
 
人気と待ち時間(行列)は切っても切れない関係です。また、「魅力のあるテーマパークだから」と待ち時間は関係ないと片付けてしまえば簡単です。でも冷静によく見れば、あらゆるところに“待ち時間”をそう感じさせない緻密に計算された仕掛けもあることが分かります。例えば「ファストパス制度」です。人気のある特定のアトラクションに優先的に入場できる制度で、アトラクション入口付近にチケット発券機があり、指定された時間にそのチケットを持ってくれば、長い列を横目にしながら待ち時間がほぼなくアトラクションを楽しめます。そのときはちょっとしたVIP気分に浸れます。その一時の感覚が脳に記憶され、“待った記憶”を薄れさせるように思います。また、ファストパス対象アトラクションは園内に散らばっています。つまり、ファストパス制度があるために人は自然と園内を縦横に歩き回っているわけです。園内を移動しているときは待ち時間でもなく、行列にも加わっていません。
 
またディズニーランドで待つときは、意外と足を止めている時間がありません。行列スペースは凝った内装で、そこを迷路のようにロープを這わせながら人を動かしています。待ちスペースもアトラクションを盛り上げるための演出の一部なのです。また、「隠れミッキー」なるものがあります。待ちスペースだけでなく園内くまなくよく見ていくと、ミッキーマウスの形をした小さなアイコンを見つけることができます。そのちょっとした演出によって探す楽しさ、見つけたときの気分の高揚感も味わえるというわけです。

病医院と待ち時間

医療機関と待ち時間も切っても切れない関係だといってよいかもしれません。世間では「3時間待ちの3分診療」なる言葉も使われるくらいです。ディズニーランドと違い、できることならば行きたくないところが医療機関です。近年は患者の権利意識が高まり、“患者様”とも呼ばれるようになり、患者が医療機関の選択権を持ちはじめると“待ち時間”がクレーム原因のダントツ1位に踊り出てきました。
 
そこで、医療機関でもさまざまな取り組みが今までもなされてきました。時間単位で診療枠に次回予約を入れていく、いわゆる予約制を導入したり、何億もかけて予約システムを導入したりした病院もあります。最近ではインターネットを活用した低価格のシステムも出てきました。とはいえ、人気のある医療機関は結局その人気に追い付かず、待ち時間対策の第1位は“諦める”という結果となっています。果たして対策はないのでしょうか?それこそ前述のディズニーランドに学ぶのです。以前、本連載で「首都高に学べ(第45回)」とも申し上げました。次はディズニーランドです。 

待ち時間の一番の要因は診療です。その前で待っている患者が渋滞するわけです。それを「首都高」の回でボトルネックと説明しましたが、待ち時間対策の1つめはボトルネック対策にあります。その対策は4つに分けることができます。 

「拡大」「短縮」「分散」「選別」です。この4つのキーワードから次回お話ししたいと思います。 

株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一