医療経営プロフェッショナル柴田雄一「ニューハンプシャーMC」

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自院経営を客観視する④(258)

手段の目的化にならないクロス分析

自院におけるStrengths(強み)とWeakness(弱み)、そして自院を取り巻くOpportunity(機会)とTreat(脅威)それぞれの洗い出し方についてこれまでお話させていただきました。これは、コントロールできる内部環境の自院においてプラスとなる要因の強みとマイナス要因になりうる弱み、更に自院ではコントロールできない外部環境のプラス要因の機会とマイナス要因の脅威、つまりは『内部環境と外部環境×プラス要因とマイナス要因』それぞれの組み合わせがSWOTです。

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ぶん-せき【分析】 
ある物事を分解して、それを成立させている成分・
要素・側面を明らかにすること。
(広辞苑より一部抜粋) 
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先の組み合わせにより“分析”の意味の通りに行われました。自院を客観視するだけならば、これで目的は果たされました。しかしこれは『手段の目的化』つまりは本来の目的を果たすための方法や行動が、いつの間にか方法や行動すること自体が目的となっている状態です。客観視して終わりではなく、そこから何かを変えていくことによってより良い未来へつなげていくことが本来の目的です。そこで新たに抽出されたSWOTを新たに組み合わせた上で更に分析していきます。それは『強みと弱み×機会と脅威』それぞれこれから説明する4つの組み合わせで新たなアイデアを創り出します。 

まずは、「強み×機会」の組み合わせとなります。プラス要因同士なので自院の強みを武器に機会(好機)を活かして積極的に攻勢をかけ自院の成長を促すことができる部分です。例えば、消化器内科を標榜して胃カメラ、大腸カメラを有していたとします。もし周辺に競合となる施設がなければ圧倒的な強みとなります。また2016年に厚労省から「がん予防重点教育及び検診実施のための指針」が示されました。胃透視(バリウム)検査に加えて内視鏡による検査が胃がん検診に推奨されました。 

各組み合わせからの行動

これを受けて多くの自治体で行う胃がん健診のメニューに胃透視検査に加えて内視鏡検査が導入されています。自院が属する自治体でも内視鏡による胃がん健診が追加されるのであれば、それが強み(内視鏡検査のできる施設)と機会(メニュー追加による内視鏡検査需要の拡大)によって、積極的攻勢をかけるという戦略を打ち出します。例えば、住民に自治体の発行する健診に関するお知らせやクーポン券などの配布のタイミングに合わせて、Web広告をその需要に向けて出稿するという経営判断を行うことができます。 

次に「強み×脅威」です。自院にとっての脅威を自院の有する強みを活かしてどう克服するのか、そのために何をすべきかを考えます。例えば、整形外科を標榜するクリニックのそばに整骨院が開業するという脅威にさらされたとします。患者は柔道整復師の業務範囲をしっかり認識しているわけでもなく捻挫や打撲などの患者が一部へ流れてしまう可能性が発生します。自院の強みはスポーツ整形外科です。今まで以上に、それを打ち出していくという差別化戦略を選択することで脅威に打ち勝つことができます。 

今度は、「弱み×機会」です。弱みによって機会を逃さないようにするには何ができるか、また弱みを機会によって克服もしくは改善することができるか考えていきます。開業したばかりで住民への認知度が低く情報発信量も少ない。一方では、近隣住民に自院のターゲットとなる世代へと遷り変わってきているならば広告宣伝の強化という選択を行えます。最後に「弱み×脅威」です。影響を最小限に抑える、またそもそも割り切って同じ土俵で戦わない(投資しない)といった選択となります。 

4回に渡り客観視するための財務分析やSWOT分析というベーシックな方法を紹介しました。他にも様々な方法はありますが、まずはここから初めてみてはいかがでしょうか? 

株式会社ニューハンプシャーMC 
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一