医療経営プロフェッショナル柴田雄一「ニューハンプシャーMC」

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自院経営を客観視する②(256)

外部環境分析

『彼を知り己を知れば百戦殆(危)うからず』、これは紀元前5世紀の中国で書かれた「孫子」と言われる兵法書の謀攻篇にある有名な一説です。最近では、経営戦略でも孫子の兵法を用いた書物も多く出版されているので、何度か耳にされたことがあるのではないでしょうか。なお、この句には続きがあり、『彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆し』とあります。つまり彼(敵)についても己(味方)について十分情報を把握していれば、百回戦っても負けることはなく、味方だけの情報把握だと勝ったり負けたりして勝率が落ち、味方のことすら知らないと必ず負けるといって、情報の重要性を説いています。ちなみにこの節が書かれている孫子の兵法の第三章である謀攻篇とは、戦わずして勝つためにどうするかということがテーマとなっています。白兵戦でなく外交など情報戦によって勝利することが上策と孫子は説いています。 

自分自身のことは自分が一番よくわかっていると、筆者もそう思うところもあるのが正直なところですが、ただ確実に自分から見えない角度が存在します。だから今回のテーマである自分という内部を客観視することが必要です。同時に自分以外の外部環境を見ていくことでより多くの気づきが得られます。そこで前回連載の最後で触れた、SWOT分析です。内部環境では、自院のStrengths(強み)とWeakness(弱み)、そして自院を取り巻く外部環境では、Opportunity(機会)とTreat(脅威)と4つの視点で分析します。そこで最初に、外部環境についてどのように分析していくのか、その着眼点について説明していきます。 

そもそも内部環境と違い、外部の環境を自分自身が好きなようにコントロールはできません。だからこそきちんとそこを把握し、自分自身がそこにしっかり適応(その状況にしっかり適っていること)しているのか、また外部の変化に順応(ある状況に合う(もしくは合わせていく)こと)させていく必要があります。 

競合、市場、政治、社会、経済、技術

外部環境を分析するとなれば、まずは孫子の兵法でも語られていた敵となる【競合】する医療機関を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。ここでは同一診療圏における競合医療機関の参入や撤退状況、競合医療機関の診療内容や患者層、広告宣伝の状況などどのような経営戦略を採っているのかなどを踏まえながら自院との比較を行います。次になすべきことは【市場(顧客)】です。受療率などを利用した診療圏における潜在的な患者数や、スマートフォンが普及した現在における患者が取る医療機関の選択方法や来院するまでの受診行動がどう変化しているのか、また患者のニーズの変化についても分析していきます。 

保健医療機関は、どうしても診療報酬改定によって影響を受けます。また当局から多くの規制の中で経営しなければなりません。医療法などの法律の中でも様々なことが定められています。つまり【政治】的な要因となる、政府の方針からなる法律や規制、税制、診療報酬改定の動向を把握しておく必要があります。また、診療圏がある程度立地によって定まってしまう病医院経営においては【社会】的な要因となる、人口動態が経営に大きく影響します。その他ネットに依存するようになってきたライフスタイルの変化など幅広くチェックしておきます。 

更には【経済】状況の把握を行います。景気の動向だけでなく金利や各購入品の相場の推移など経営に関わってくる項目について分析していきます。そして【技術】です。医療や医薬品の開発、医療機器など日進月歩で進化しています。新技術によって代替え可能な領域が存在しているかもしれません。また昨今のデジタル技術の進化はすさまじいものがあります。今後どうデジタルを活かしていくのかは、どの分野でも大きなテーマとなっています。以上6つの着眼点で外部環境を見つめ直してみてください。次回は、内部環境です。 

株式会社ニューハンプシャーMC 
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一