「新規開業より低コストでスタートしたいが、医院を譲り受けるには総額いくら必要なのか分からない」
「買収価格だけでなく仲介手数料や設備更新費まで含めた“本当の予算”を把握したい」
そんな買い手側の悩みを抱えるドクターや医療法人経営者は少なくありません。
医院継承の費用相場は、診療科目や立地、患者基盤の安定度など多岐にわたる要素で変動し、一見すると見えにくいのが実情です。
今回の記事では譲渡対価の算定方法や、仲介・専門家報酬、設備更新・運転資金まで「買い手が負担するコスト」をメインに医院継承の際の費用相場を解説していきます。
医院継承時にかかる費用が気になっている方は、ぜひ参考にしてください。
【結論】医院継承の相場を決める要素と総費用の目安
医院を譲り受ける総費用は〈譲渡対価:年商の0.7〜1.3倍〉+〈仲介・専門家報酬:取引額の3〜5%〉+〈設備更新・運転資金:年商の0.2〜0.4倍〉が基準です。
補助金と仲介手数料の割合交渉を組み合わせれば、自己資金は総額の50%前後まで圧縮でき、中小企業経営強化税制の即時償却を使えば減価償却負担も軽減できます。
医院継承に必要な資金の全体像
医院を引き継ぐ際に負担する費用は大きく「譲渡対価」「仲介・専門家報酬」「追加投資・運転資金」の三つに分かれます。これらは互いに連動し、どれかを過小評価するとキャッシュフローが逼迫しかねません。最初に総額と各項目の構成比を把握し、自己資金のほか融資枠や補助金を含めた調達計画を立てることが、スムーズな承継成功への第一歩です。
譲渡対価(買収価格)の内訳と目安
譲渡対価は医院継承の相場を決定づける中心項目です。営業権(のれん)、医療機器・什器、不動産、運転資産・負債という四つの要素を積み上げて算定するのが一般的です。営業権は年間利益の2〜4倍が目安とされており、自由診療の比率が高いほど倍率が上がる傾向にあります。高額医療機器は帳簿価格ではなく、中古市場価格を参照するほうが実態に即していると言えるでしょう。
不動産については、所有か賃貸かで評価方法が異なります。所有物件であれば収益還元法を用い、賃貸の場合は近隣賃料をベースに敷金・礼金を調整します。運転資産・負債の調整を怠ると、資金繰りに影響するため注意が必要です。
仲介手数料・専門家報酬の標準レンジ
仲介会社やFAに支払う報酬は歩合制が主流で、レーマン方式が広く採用されています。レーマン方式とは、取引金額が高いほど料率が下がる逓減構造ですが、実際には最低報酬額を設定している会社も少なくありません。
加えて、公認会計士や弁護士へのデューデリジェンス費用、司法書士の名義変更費用なども必要です。複数社に見積もりを依頼し、着手金・中間金を抑えた報酬スケジュールを交渉することで、初期キャッシュアウトを軽減できます。
設備更新・運転資金など隠れコスト
譲渡直後は医療機器の入れ替えや内装改修、ITシステム更新など追加投資が発生しがちです。特に電子カルテやレセプト請求ソフトのバージョンアップは診療停止リスクを避けるうえで優先度が高い項目です。
さらに、患者数が引継ぎ後すぐに回復しないケースを想定し、最低でも3〜6か月分の運転資金を確保しておくと安心です。
譲渡対価の相場を決める3つの指標

適正価格を見極めるには収益力・資産価値・無形資産の三つの指標を総合的に検証する必要があります。これらは単独ではなく相互補完的に機能し、医業収益が低くても立地やブランド力で価値が高まるケースもあるため、バランスを意識した評価が重要です。
収益力:年商×EBITDA倍率の考え方
直近3期の平均EBITDAに2〜4倍を乗じる方法はシンプルながら信頼性が高く、多くの仲介で採用されています。自由診療主体の美容系クリニックやインプラント中心の歯科は利益率が高いため倍率が上振れしがちです。
反対に保険診療主体でも利益率が低い場合は倍率が下がり、結果として譲渡対価が年商未満になる例も見受けられます。
※EBITDAとは:利払前税引前償却前利益
資産価値:不動産・医療機器の残存価額
不動産を所有している場合は、毎月の家賃支出がないぶん利益率が高くなるため、収益還元法で割り引いた現在価値が重要になります。
医療機器は法定耐用年数より実使用年数が長いことが多く、想定残存価額が過大になると買い手の初期負担増につながります。
中古市場の実勢価格を仲介会社任せにせず、自ら確認しておくことで交渉時の説得力が高まります。
無形資産:患者・スタッフ基盤の価値
無形資産は数値化が難しいものの、患者リコール率・自費率・スタッフ定着率などを指標として可視化できます。
たとえば定期通院患者の継続率が80%を超えている医院は、継承後の売上再現性が高いと判断され、のれん倍率が上がる傾向にあります。
カルテ分析ツールやアンケートを用いて裏付けデータを提示すると、価格交渉を優位に進められます。
科目別・地域別の医院継承価格の平均レンジ
同じ年商でも診療科目や立地で価格帯は大きく異なります。ここでは複数の仲介事例から算出した平均レンジを示し、自院がどのゾーンに当てはまるか判断する材料にしていただけます。
内科・小児科クリニック
保険診療比率が高く収益が安定しやすい点が魅力ですが、競合医院が多いエリアでは患者奪取が起こりやすいため、立地と診療圏のバランスが価格に直結します。
都市部の相場
年商の1.0〜1.3倍が目安で、地下鉄駅徒歩5分以内や医療モール内などアクセス性が高い物件は倍率が上がります。電子カルテ完備やキャッシュレス決済導入などIT投資済みの場合、初期投資を抑えられる点が評価され、買い手の競争率が高まりがちです。
地方の相場
年商の0.7〜1.0倍が中心帯です。人口減少地域では患者数減少リスクを織り込むため倍率が下がりますが、土地付き物件は資産価値が残るため金融機関の評価が上がり、融資が引き出しやすい利点があります。
歯科・美容系クリニック
自由診療比率が価格を大きく左右します。インプラントや審美治療が主軸の歯科、脱毛・フェムテックなど単価が高い美容皮膚科は、粗利率が高いぶん営業権評価が上振れしやすいのが特徴です。
都市部の相場
EBITDA(利払前税引前償却前利益)の3〜4倍が目安ですが、自費率が60%を超えると5倍前後で成約する例もあります。ただし高額機器のリース残債が多いと実質負担額が膨らむため、残存リース期間と償却計画の確認が必須です。
地方の相場
EBITDAの2〜3倍が中心帯です。観光地や政令市周辺など集客ポテンシャルが高いエリアは倍率が上がる傾向にありますが、人口流出地域では患者基盤の将来性を示すデータ提出が価格維持の鍵を握っています。
仲介手数料・成功報酬の仕組みと最適化

同じ案件でも仲介会社の選定と報酬交渉次第で総コストに大きな差が生じます。
ここでは代表的な報酬体系と費用削減のポイントを解説します。
レーマン方式の手数料の計算方法
レーマン方式は取引金額の区分ごとに料率を掛け合わせる階段式です。たとえば1億円の案件では「〜5億円区分5%」を適用し、手数料は概算で500万円+消費税となります。
最低報酬が設定されている場合、規模が小さい案件でも300万円以上かかるケースがあるため、契約前に必ず確認しましょう。
着手金・中間金を減らす契約交渉術
報酬を成功報酬に一本化する「フルサクセスフィー」を採用する仲介会社も増えています。着手金ゼロ、または上限を100万円に抑えることで、成立までの持ち出しを最小化できます。
複数社を比較し、上場企業系や士業事務所系など特徴を把握して選ぶことが重要です。
買い手が受けられる助成金・補助金
事業承継・引継ぎ補助金は譲渡対価の1/2(最大2500万円)を補助対象とし、仲介手数料やデューデリジェンス費用も含めて申請できます。IT導入補助金を活用すれば電子カルテやオンライン診療システムの導入費用を3/4まで補填できる場合があり、資金負担を大幅に軽減できます。
資金調達と節税を両立させる承継スキーム
自己資金のみで医院を取得すると運転資金が枯渇するリスクがあります。
融資や税制優遇を組み合わせて、安定した資金繰りを実現しましょう。
日本政策金融公庫・制度融資の活用法
日本政策金融公庫の「医療・福祉特別貸付」は無担保・固定金利で最長20年返済が可能です。自治体の制度融資と併用すると、補助金による利子補給や保証料減免が受けられ、年間返済額を抑えられます。
事前に簡易事業計画書を作成し、公庫と地元金融機関へ同時に相談することで承認率が高まります。
株式譲渡 vs 事業譲渡:税負担比較
株式譲渡は消費税非課税で登録免許税も不要ですが、のれん償却ができません。事業譲渡は譲渡資産に消費税が課税される一方、のれんを5年で償却できるため節税効果があります。買い手が支払う実効税率を比較し、5年先までのキャッシュフローで有利なスキームを選択しましょう。
事業承継税制・のれん償却メリット
一定の要件を満たした株式譲渡では贈与税・相続税が100%猶予される特例を利用できます。要件として承継後5年間の雇用確保や医業継続が定められているため、労務計画や設備投資計画を事前に検討しておく必要があります。
失敗しない継承プロセスとコスト削減ポイント

医院継承は価格交渉よりもプロセス管理の巧拙がコストとリスクを左右します。透明性のある情報開示と適切な専門家の選定が、結果としてコスト削減につながります。
デューデリジェンス(DD)で注目すべき費用項目
未払社会保険料・リース債務・医薬品在庫は簿外債務として残りやすく、買い手の負担増につながる典型例です。専門家チームには医療特化の会計士や労務士を含め、財務DDだけでなく人事労務DDも実施するとリスクを低減できます。
価格交渉を有利に進める資料準備
診療科別患者数推移、オンライン診療比率、自費診療比率など細分化したKPIを提示できると、継承後の事業計画の信頼性が高まり、価格交渉を主導しやすくなります。可視化されたエビデンスは金融機関の融資審査にも有利に働きます。
クロージング後のキャッシュフロー管理
引継ぎ初年度は季節変動やスタッフ離脱などで利益が不安定になりがちです。月次決算を導入し、売上・費用・キャッシュの3ポイントをモニタリングする仕組みを整えておくと、想定外の資金流出を早期に把握できます。
まとめ
医院継承では譲渡対価・仲介報酬・追加投資の三大コストを正確に把握し、収益力・資産価値・無形資産を総合評価して「医院継承の相場」を読み解くことが重要です。
補助金や公庫融資を活用し、報酬体系を交渉で最適化することで総費用を圧縮できます。さらに、専門家を交えたデューデリジェンスと月次キャッシュフロー管理を徹底すれば、資金ショートのリスクを抑えつつスムーズな承継が実現します。
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