「開業を決意したものの、実際にいくら用意すれば良いのか」「銀行はどこまで融資してくれるのか」「事業計画書はどう書けば説得力が増すのか」。クリニック開業を目指す医師の多くが、資金計画と事業計画の具体的な組み立て方で立ち止まります。
この記事では、開業費用の内訳から資金計画書・事業計画書の作成手順、金融機関へのアプローチ、補助金の活用方法まで順を追って解説します。
自己資金と融資の適切なバランスを把握し、キャッシュフローが途切れない堅実な資金計画の立て方がわかる内容となっています。
事業計画の書き方も紹介するので、事業計画書の書き方がわからない、融資の成功率を高めたい方とお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
クリニック開業時の資金計画の基礎

開業費用は建築・内装から人件費、IT 投資まで多岐にわたり、想定を超える支出が後から判明すると資金繰りを圧迫します。まず全体像をつかみ、費目ごとの優先度と支払時期を整理することで、自己資金と融資のバランスを最適化できます。
- 開業費用の内訳を網羅的に把握
- 自己資金と融資割合の決定指針を理解
- 計画段階で予備費を確保し資金ショートを防止
以下では代表的な費用項目と資金調達の考え方を順に解説し、資金計画書作成へスムーズにつなげます。
開業費用の内訳
開業費用は「建築・内装」「医療機器・備品」「IT・電子カルテ」「広告宣伝」「人件費・採用」「予備費・運転資金」の6分類に分けると見落としを防げます。各費目は発生タイミングが異なるため、資金計画書では支払スケジュールを併記することで、キャッシュフローを正確に把握できます。
建築・内装費
テナント型でも改装費は㎡当たり15万円前後、スケルトン工事の場合は20万円超が相場です。診療科目によって配管や鉛ガラスなど特殊施工が必要になり、追加工事費が発生します。見積もり時点で素材グレードを決め、設計変更が生じないようにするとコストの膨張を抑えられます。
医療機器・備品費
主要機器はリース・購入いずれでも月額換算し、減価償却を反映した費用を計上します。中古導入で初期投資を圧縮するケースもありますが、保守契約や修理費が上乗せされる点に注意が必要です。診療報酬で回収できる機器とそうでない機器を分けて採算を試算しましょう。
IT・電子カルテ導入費
電子カルテや予約システムはクラウド型が主流で、初期導入費30万〜100万円、月額2万〜5万円が目安です。ハードウェア更新やバックアップ費用を含めた5年総コストを算出し、リース料や保守費を資金計画書に反映させると信頼性が高まります。
広告宣伝・集患費
開業初期の来院数を担保するための費用として、看板設置やホームページ制作、WEB広告運用などに300万〜500万円を充てるケースが一般的です。費用対効果を測るため、媒体ごとの KPI を設定し、運用開始後3カ月で見直すサイクルを計画段階で組み込みます。
人件費・採用費
医療事務や看護師などの採用活動は開業3〜4カ月前から開始し、求人広告や紹介手数料として50万〜100万円が発生します。開業月は来院が不安定なため、給与を固定給+歩合で設定する、短時間勤務を組み合わせるなど柔軟な人件費設計が資金繰りを安定させます。
予備費・運転資金
診療報酬の入金は月末締め翌月末払いが一般的で、開業後2〜3カ月は収入がゼロの期間が生じます。家賃・人件費・材料費など固定費3カ月分を予備費として確保し、突発的な修繕や法改正対応にも備えると資金ショートのリスクを最小化できます。
自己資金と融資割合
自己資金は総投資額の2〜3割を目安に設定すると、金融機関からの評価が高まり借入条件が有利になります。過度な自己資金の投入は開業後の運転資金を圧迫するため、余裕資金は予備費として温存し、残りを頭金として活用するバランスが理想的です。融資額は償還期間10年を上限に、月次キャッシュフローで返済比率25%以下を維持すると資金繰りが安定します。
クリニック開業時の資金計画書作成手順
資金計画書は「融資を受けるための根拠」と「自身の支出管理表」という二つの役割を持ちます。診療報酬の入金サイクルや設備投資の減価償却を踏まえ、経営初年度でも黒字化までの資金繰りを可視化することが目的です。
- 売上予測は患者数と平均単価から算出
- 支出は固定費と変動費を分けて整理
- キャッシュフローで月次残高を確認
以下の3ステップで作成すれば、金融機関が重視する返済能力とリスク耐性を明確に示せます。
売上予測の立て方
売上予測は「1日あたりの想定患者数×営業日数×平均診療単価」で算出します。初月は患者数を50%に抑え、3カ月で100%、6カ月で120%へ漸増させることが現実的です。平均単価には再診・検査・自費診療の構成比を設定し、季節変動や休診日調整も織り込むことで精度が高まります。
支出と運転資金試算
支出は家賃・人件費・リース料などの固定費と、医薬品・消耗品などの変動費に分けます。固定費のうち家賃は賃料3カ月分、給与は2カ月分を開業費として先払いするケースが多いため、初期資金に計上します。運転資金は固定費3カ月分+変動費1カ月分を準備すると資金ショートを回避しやすくなります。
キャッシュフロー作成
月次キャッシュフロー表を作成し、「期首残高+収入–支出=期末残高」を12カ月分並べます。融資返済額を組み入れたうえで、期末残高が常にプラスかつ固定費1カ月分以上を維持できるか確認してください。赤字月が発生する場合は、返済スケジュールや広告費配分を見直し、資金余力を確保します。
クリニック開業時の事業計画書の書き方

事業計画書は診療理念を市場にどう適合させ、収益を上げるかを示す“経営の設計図”です。金融機関や大家との交渉でも重視されるため、数字と市場根拠をセットで提示し、実行力を証明する必要があります。
診療方針と差別化
診療方針は「専門性」「利便性」「地域貢献」の3軸で差別化ポイントを整理します。例として、糖尿病外来に特化しながらオンライン診療と18時以降の夜間診療を組み合わせると、競合が少ないニッチ市場を確保できます。患者メリットを明確化することで広告コピーにも一貫性が生まれます。
市場分析とターゲット
診療圏分析ソフトや公的統計を活用し、人口構成・競合クリニック数・最寄り駅の乗降客データを抽出します。ターゲットを「30代〜50代ビジネスパーソン」など具体的に設定し、その層に刺さる立地・診療時間・販促媒体を選定することで、計画書の説得力が向上します。
収支シミュレーション
市場分析で算出した潜在患者数をベースに、患者獲得率5%・10%・15%の3パターンで収支を試算します。最悪ケースでも営業利益が赤字にならない構造を示せると、金融機関のリスク評価が大幅に下がり、金利や返済期間の条件が有利になります。
クリニック開業で融資を成功させる方法
融資審査では返済能力に加え、事業計画の実現性とリスク管理体制が細かく評価されます。ここでは金融機関が注目するポイントと、書類準備から面談対策までの実践的な方法を解説します。
金融機関の評価基準
評価基準は「自己資金比率」「収支計画の妥当性」「経営者の実績」の3点が中心です。自己資金比率が20%を超えると自己責任意識が高いと見なされ、金利が0.3〜0.5%下がるケースがあります。また、勤務医としての実績や専門医資格も信用補強材料になります。
必要書類と提出手順
主要書類は資金計画書・事業計画書・運転免許証コピー・納税証明書・医師免許証で、法人設立予定なら定款案も求められます。書類提出後は2週間前後で事前審査の回答が届くため、並行して内装業者と工期調整を進めると開業スケジュールを圧縮できます。
失敗例と対策ポイント
失敗例で多いのは「過大な売上予測」「運転資金の不足」「医療機器の過剰投資」です。売上予測は近隣競合の実績値と比較し、運転資金は固定費3カ月分を下回らないよう再試算します。医療機器は診療報酬で採算が取れるものを優先し、導入時期を2段階に分けると資金負担を平準化できます。
クリニック開業の補助金・公的支援
補助金や助成金を活用すると自己資金を温存でき、資金計画の安全余裕が高まります。採択には申請タイミングと要件適合が重要なため、募集要項を早期に確認し、専門家と連携して申請書を作成することが成功の近道です。
活用できる補助金
代表的な制度は「ものづくり補助金」「事業再構築補助金」「IT 導入補助金」です。例えば電子カルテ導入では IT 導入補助金の対象経費として最大350万円が交付される可能性があります。対象経費の範囲と採択率を確認し、複数制度の併用可否を検討してください。
自治体助成の探し方
自治体助成は地域医療を支える開業医向けに、設備費や家賃補助など独自の支援を行うケースがあります。都道府県の医療政策課や商工会議所のサイトで公募情報を定期的に確認し、募集開始前に相談会へ参加すると審査ポイントを事前に把握できます。
専門家相談の目安
補助金申請は書類一式で50ページを超える場合もあり、書式ミスや齟齬が不採択の原因になります。採択率を高めたい場合は、行政書士や中小企業診断士に報酬15万円前後で書類作成を依頼する方法が費用対効果に優れます。
クリニック開業資金計画のよくある質問
自己資金はいくら準備すべき?
総投資額の25%を目安にすると、金融機関の評価が高まり金利が引き下げられる傾向があります。ただし生活費を圧迫しない範囲で残すことが重要です。
運転資金は何か月分必要?
診療報酬の入金サイクルを考慮し、固定費3カ月分+変動費1カ月分を確保すると資金ショートを防ぎやすくなります。
医療機器リースと購入どちらが有利?
キャッシュフローを重視するならリース、長期採算と減価償却メリットを重視するなら購入が有利です。採算分岐点を試算して判断しましょう。
融資審査で重視されるポイントは?
自己資金比率と収支計画の妥当性が最重要です。勤務医歴や専門医資格など医師個人の実績も加点対象になります。
補助金申請のタイミングはいつ?
着工前が原則です。契約締結後は対象外になるため、設計図面が確定した段階で申請準備を始めるとスムーズです。
まとめ
クリニック開業の資金計画は「費用全体の網羅」「自己資金と融資の最適配分」「資金計画書と事業計画書の精緻化」が成功のポイントです。費用を6分類で整理し、固定費3カ月分の運転資金を確保すると資金ショートのリスクを大幅に減らせます。事業計画書では市場分析と差別化戦略を明示し、金融機関が納得できる収支シミュレーションを提示しましょう。さらに補助金や自治体助成を組み合わせることで自己資金を温存し、開業後の資金繰りを安定させることが可能です。この記事を参考に、堅実で再現性の高い資金計画を立て、理想のクリニック開業を実現してください。
ニューハンプシャーMCでは、医療に特化したコンサルティングサービスを提供しております。
開業や継承、集患に悩んでいる方は、ニューハンプシャーMCにご相談ください。
オンラインでの無料相談も行っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
お問い合わせは
こちら
また、弊社の考え、ノウハウが凝縮された書籍も販売しております。
弊社にお問い合わせいただく9割以上の方が、本を通じて弊社の考えに共感しお問い合わせいただいております。