クリニックを継承するか、それともゼロから開業するか。診療圏調査や資金調達、スタッフ採用など、決断に向けて検討すべき要素は山ほどあります。継承を選べば既存の患者基盤や設備を活かせますが、譲渡契約や運営スタイルのギャップといった課題も見逃せません。
この記事では、クリニック継承のメリットと潜むデメリットを整理し、新規開業との違いを分かりやすく比較し解説していきます。
継承候補の物件を前に足踏みしている院長候補の方が、最適な開業形態を判断できるよう、意思決定に直結するチェックポイントや成功事例についても解説していきますので、クリニック(医院)継承の予定がある方や、継承の話をもらい悩んでいるという方は、ぜひ参考にしてください。
クリニック継承の概要

クリニック継承とは、既存の医療機関を譲り受け院長として経営を引き継ぐ開業手法です。診療科目や患者属性、スタッフ体制が既に整っているため、ゼロからの開業より短期間で地域医療に参入できる点が大きな特長です。ただし譲渡契約や事業評価の手続きは複雑で、法務・税務面の知識と専門家連携が欠かせません。
継承スキームと流れ
継承は「退任計画」「事業計画」「契約締結」「引継ぎ運営」の四段階で進行します。現院長が退任時期と法人形態を整理し、買手候補は診療圏調査と収支シミュレーションで事業価値を算定します。条件合意後は基本合意書→詳細デューデリ→最終契約を経て、厚生局へ開設者変更届を提出します。最後にカルテ管理やスタッフ雇用契約を再締結し、通常診療へ移行する流れです。
現状分析で確認すべき点
譲受候補はまず診療収入と費用構造を把握します。レセプト枚数推移、診療単価、保険外収入、人件費率を過去三年分比較し安定性を確認します。建物・機器の残存耐用年数やリース債務も精査し、未把握の負債を洗い出します。さらに患者年齢層や紹介元医療機関リストの分析で、自身の診療方針との適合度を検証し、譲渡後ギャップを最小化します。
クリニック継承の主なメリット
継承を選択すると、資金・時間・信用の3つの側面で大きな優位性を得られます。特に患者基盤や地域の信頼を一括で引き継げる点は競争が激しい都市部ほど価値が高い資産です。
主なメリットは次の5つです。
- 患者基盤を引き継げる
- 設備投資を最小化できる
- 開業準備期間を短縮できる
- 地域の信頼を継承できる
- 金融機関の評価が高い
以下で各メリットを具体策とともに解説します。
患者基盤を引き継げる
既に通院習慣のある患者をそのまま引き継げるため、継承初月からレセプト枚数を確保できます。一般内科の新規開業では黒字化閾値である月間患者数500人超えまで平均14か月要しますが、継承では3か月で達成する事例が多いです。早期にキャッシュフローを安定させることで、人員確保や設備増強など次の投資に資金を回しやすくなります。
設備投資を最小化できる
CTや内視鏡など高額機器を新規導入すると数千万円規模の支出が発生しますが、継承案件では簿価が下がった状態で譲り受けられます。初期投資額を新規開業の40〜60%に抑えられる例が一般的です。リース契約を引き継ぐ場合は、残存期間を踏まえて条件を再交渉することでさらなるコスト削減が可能です。
開業準備期間を短縮できる
物件選びや内装工事、機器納入が不要なため、契約から診療開始まで平均6か月で済みます。新規開業の平均準備期間12〜18か月に対し固定費負担と機会損失を大幅に圧縮できる点が魅力です。専門医の取得直後に地元で開業したい医師にとって、短期での開業はキャリア形成面でも大きな利点になります。
地域の信頼を継承できる
長年地域医療を支えてきたクリニックには口コミや紹介ルートなど無形資産が蓄積しています。診療体制を大きく変えない限り信頼は新院長にも自然と移行し、広告宣伝費を抑えつつリピート比率を高く維持できます。診療方針を刷新する場合は患者説明会を開き、納得を得てから導入することで離反リスクを防げます。
金融機関の評価が高い
既存実績があるクリニックは金融機関にとってリスクが低く、融資審査がスムーズです。継承案件の融資承認率は新規開業比で約1.5倍高い統計があり、金利や返済期間条件も有利になりやすいです。追加融資を得て診療拡大に踏み切るハードルも下がります。
クリニック継承のデメリット
既に出来上がった組織を引き継ぐがゆえの制約も存在します。人的・法的リスク対応が不十分だと、黒字基盤が短期間で損なわれる恐れがあります。代表的なデメリットを整理します。
既存スタッフ管理の難しさ
長年勤務するスタッフは旧院長への忠誠心が強く、新院長の方針転換に抵抗を示す場合があります。離職による診療停止リスクを防ぐには、就任前面談でビジョンと処遇方針を明確に伝え、信頼関係を構築することが重要です。就業規則や評価制度を段階的に刷新し、既存文化と新方針の融合を図る必要があります。
契約・法務リスクへの対策
建物賃貸借や機器リース契約が旧院長名義のまま残ると、名義変更遅延や滞納履歴が露見するリスクがあります。医療法人を株式譲渡で継承する場合は簿外債務や訴訟リスクの有無を洗い出すことが不可欠です。専門家チームでデューデリジェンスを実施し、契約書に表明保証と補償条項を盛り込みリスクを軽減します。
施設老朽化コスト負担
築年数が経過した建物や機器は修繕・更新費用が膨らみがちです。内装改修費は㎡あたり10万円前後が相場ですが、消防法改正やバリアフリー対応で追加費用が発生します。譲渡時に長期修繕計画を取得し、五年先までの資本的支出を試算して譲渡価格に反映させることが望まれます.
新規開業との違いを比較

継承と新規開業のどちらが適切かは資金力・ライフプラン・経営スタイルで変わります。初期投資、集患方法、収益化スピードの三観点で違いを明確にします。
初期投資額の違い
新規開業では物件取得費・内装費・機器購入費が重なり平均7,000万円〜1億円必要です。一方継承案件の平均譲渡価格は4,000万円前後で、設備が稼働状態であるため実質投資額はさらに低くなります。ただし老朽設備の更新費を含めた総コストで比較することが前提です。
集患マーケティングの差
新規開業は開院前からポスティングやWeb広告、連携挨拶回りを行い、開院一年以内にリピート患者を定着させる必要があります。継承では既存患者がいるため広告費を抑えられますが、院長交代による離反防止策としてサービス向上やブランド再構築が欠かせません。継承後六か月以内に患者満足度調査を実施し、改善策を即時反映することで離反率を一桁に抑えられます。
収益化までの期間
新規開業では黒字化まで平均18か月を要しますが、継承では3〜6か月で安定黒字に移行する事例が多いです。ただし譲渡直後は減収リスクがあるため売上10%減でシミュレーションし、運転資金を十分確保することが推奨されます。診療報酬改定のタイミングも考慮し、価格戦略を適宜見直すことが重要です。
クリニック継承を成功させるポイント
メリットを最大化しデメリットを抑えるには事前準備と専門家連携が鍵となります。成功事例に共通する四つのポイントは以下のとおりです。
- 優良案件を見極める視点
- 専門家チームを活用
- 徹底したデューデリジェンス
- 譲渡後の運営改善計画
次節で各ポイントを具体策とともに解説します。
優良案件を見極める視点
案件評価では立地人口・競合密度・診療実績・財務健全性を総合判断します。半径1km内の同科競合が三件以下で夜間休日人口カバー率80%以上なら成長余地が大きいといえます。過去三年の営業利益率が15%以上で推移し、オーナーや医師の報酬を除いても黒字である案件は譲渡後の追加投資回収期間が短く金融機関評価も高いです。
専門家チームを活用
医療M&A仲介、公認会計士、医療弁護士、機器ディーラー、金融機関担当者を含むチームを早期に組成すると情報非対称性を解消できます。仲介会社が非公開案件を紹介し、公認会計士が財務デューデリを実施、弁護士が契約書レビューを担当し、ディーラーが設備更新費を算定します。役割を明確にすることで交渉力とリスク管理力を高められます。
徹底したデューデリジェンス
財務・法務・人事・医療機器・ITの五領域で資料請求と現地調査を実施し、レポートを共有するプロセスが不可欠です。特にレセプトデータ分析と電子カルテ保守体制確認は収益と診療効率に直結します。調査結果を基に譲渡価格や表明保証内容を交渉し、不測のリスクを価格に反映させることが重要です。
譲渡後の運営改善計画
就任後の90日プランを策定し、短期・中期のKPIを設定します。短期KPIには患者離反率5%以下、平均待ち時間15分短縮、口コミ評価★4.0維持などを設定しスタッフと共有します。中期KPIで診療単価3%向上や自費診療売上比率10%を掲げることで組織一体の目標管理が可能になります。
クリニック継承の税務と資金調達

譲渡価格の設定方法や事業承継税制の活用可否で実質負担額は大きく変わります。資金計画を誤ると運転資金が不足し成長投資のタイミングを逃す恐れがあります。税務と資金調達の要点を整理します。
譲渡対価の評価方法
譲渡対価は「純資産価額法」「DCF法」「診療圏倍率法」のいずれかを基準に設定されます。中小クリニックでは年間診療収入×倍率(0.8〜1.2倍)で算定するケースが一般的です。設備更新負担や未払退職金などを控除した実質価値で再交渉する余地があり、公認会計士の評価書を用意すると説得力が高まります。
事業承継税制の活用
医療法人を株式譲渡で継承する場合、事業承継税制の特例措置を利用すると贈与税・相続税の最大100%が猶予されます。適用には都道府県認定、事業計画書提出、五年間の雇用維持など条件がありますが、要件を満たせば税負担を大幅に削減できます。制度は2027年12月までの時限措置のため早期検討が求められます。
金融機関との交渉術
融資交渉では実績に基づくキャッシュフロー計画と成長戦略を具体的に示すことが重要です。地域金融機関や日本政策金融公庫、医療法人向けファンドを含む複数行に同時打診し、条件を比較することで金利0.3%程度の差が生じることもあります。信用保証協会制度を併用すれば自己資金比率10%台でもフルファイナンスが可能です。
まとめ
クリニック継承は患者基盤や設備を一括で引き継げるため、短期間・低コストで安定した開業が可能です。一方でスタッフマネジメントや法務リスク、老朽化コストなど固有の課題も伴います。優良案件の選定、専門家チームの活用、徹底したデューデリジェンス、譲渡後の運営改善計画を実行することが成功のポイントです。譲渡価格の適正評価と事業承継税制、融資交渉による資金効率向上で成長の余地を最大化できます。継承を検討する医師は本記事の手順と指標を活かし、後悔のない開業形態を選択してください。
ニューハンプシャーMCでは、医療に特化したコンサルティングサービスを提供しております。
開業や継承、集患に悩んでいる方は、ニューハンプシャーMCにご相談ください。
オンラインでの無料相談も行っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
お問い合わせは
こちら
また、弊社の考え、ノウハウが凝縮された書籍も販売しております。
弊社にお問い合わせいただく9割以上の方が、本を通じて弊社の考えに共感しお問い合わせいただいております。