「なぜ、うちの病院は赤字から抜け出せないのだろうか…」
「このままでは経営が立ち行かなくなるのでは…」
多くの病院経営者様が、このような深刻な悩みを抱えていらっしゃるのではないでしょうか。日々の診療に追われながら、資金繰りや人材確保、将来への不安と向き合うことは、精神的にも大きな負担となっていることでしょう。
しかし、ご安心ください。病院経営が赤字に陥るのには、明確な理由があります。そして、その原因を正しく理解し、適切な対策を講じることで、黒字化への道筋を切り拓くことは十分に可能です。
この記事では、クリニックの開業、経営コンサルティング、そして事業継承の分野で多くの医療機関を支援してきた専門家の視点から、病院経営が赤字になる根本的な原因を徹底的に分析します。さらに、厳しい経営環境の中でも持続的な成長を実現するための、具体的な黒字化戦略についても詳しく解説していきます。
この記事を読むことで、あなたの病院が抱える経営課題の本質が見え、明日から実践できる具体的な改善策のヒントが見つかるはずです。赤字経営からの脱却を目指し、地域医療に貢献し続けられる安定した病院経営を実現するための一歩を、共に踏み出しましょう。
目次
近年、多くの病院が厳しい経営状況に直面しています。単に一部の病院の問題ではなく、地域医療全体に関わる構造的な課題として捉える必要があります。
公的な調査データを見ると、病院経営の厳しさが浮き彫りになります。
例えば、独立行政法人福祉医療機構(WAM)が定期的に発表している病院の経営状況調査では、赤字経営となっている病院の割合が依然として高い水準で推移していることが示されています。
特に地方の中小病院においては、その傾向が顕著です。コロナ禍における補助金の影響で一時的に改善が見られたものの、根本的な収益構造の課題は解決されておらず、依然として予断を許さない状況と言えるでしょう。
病院の赤字経営は、単に数字上の問題にとどまりません。経営が悪化すると、以下のような深刻な影響が生じる可能性があります。
このように、赤字経営は病院の存続そのものを脅かし、地域医療全体にも悪影響を及ぼす深刻な問題なのです。
では、なぜ多くの病院が赤字経営に苦しんでいるのでしょうか。その原因は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合っています。ここでは、主な原因として考えられる5つの点を掘り下げて見ていきましょう。
病院の収入の大部分を占める診療報酬は、国の政策によって定期的に見直されます。この改定への対応が遅れると、収益に大きな影響が出ます。
診療報酬は、医療費抑制の観点から、全体としてマイナス改定となる傾向が続いています。個々の点数が見直されるだけでなく、算定要件が厳格化されることも多く、従来通りの診療を行っていても収入が減少してしまうケースがあります。改定内容を正確に把握し、適切な対策を講じなければ、収益の低下は避けられません。
診療報酬の算定ルールは年々複雑化しており、全ての項目を正確に理解し、適切に請求することは容易ではありません。算定要件を満たしているにも関わらず請求漏れ(算定漏れ)が発生していたり、逆に誤った請求(返戻)があったりすると、本来得られるはずの収入を失うことになります。専門知識を持つ医事課スタッフの育成や、チェック体制の強化が不可欠です。
多くの病院では、依然として保険診療収入への依存度が高い状況です。しかし、診療報酬が抑制傾向にある中で、安定した経営基盤を築くためには、収益源の多様化も検討する必要があります。例えば、健康診断、人間ドック、自由診療(美容医療など)、あるいは院内スペースの有効活用(カフェの設置など)といった、保険診療以外の収益の柱を育てることが、今後の病院経営において重要性を増しています。
医療従事者の確保は、多くの病院にとって喫緊の課題です。人手不足は、人件費の高騰にも直結し、経営を圧迫する大きな要因となっています。
特に地方や中小規模の病院では、医師や看護師、その他の医療専門職の確保が非常に困難になっています。都市部への人材集中や、特定の診療科における医師不足などが背景にあります。人材紹介会社への依存度が高まり、採用コストが増大する傾向も見られます。
少ない応募者の中から優秀な人材を採用するための競争は激化しており、採用広告費や人材紹介手数料などの採用コストは上昇傾向にあります。また、採用後も質の高い医療を提供するためには、継続的な研修や教育が必要であり、そのためのコストも経営の負担となります。
新人スタッフの早期離職は、これらのコストを無駄にしてしまうリスクもはらんでいます。
医師の働き方改革をはじめとする労働時間管理の厳格化は、医療現場の労働環境改善に不可欠な取り組みですが、一方で、時間外労働の抑制や人員増強が必要となり、結果として人件費の増加につながるケースが多く見られます。限られた人員で従来の業務量をこなすための業務効率化や、タスクシフト/タスクシェアの推進が急務となっています。
質の高い医療を提供するためには、医療機器や施設の維持・更新が不可欠ですが、これらには多額の費用がかかり、経営を圧迫する要因となります。
医療技術の進歩に伴い、CTやMRIといった画像診断装置をはじめ、様々な医療機器は年々高度化・高額化しています。最新の医療を提供するためにはこれらの機器への投資が必要ですが、その費用負担は莫大です。リースやレンタルといった手法もありますが、長期的に見ればコストがかさむ可能性もあります。
築年数が経過した病院では、建物の老朽化が進行し、耐震性の問題や設備の陳腐化などが課題となります。大規模な修繕や改修、場合によっては建て替えが必要となりますが、これには巨額の資金が必要です。特に、診療を継続しながら工事を行う場合は、さらにコストや手間がかかります。
設備投資は、場当たり的に行うのではなく、長期的な視点に立った計画的な投資戦略が必要です。しかし、将来の医療需要や技術動向を見据えた計画を立て、そのための資金を安定的に確保することは容易ではありません。金融機関からの融資を受ける際にも、事業計画の妥当性や返済能力が厳しく問われます。
地域の人口減少や競合病院の増加などにより、患者確保が以前よりも難しくなっています。効果的な集患・増患戦略がなければ、患者数の減少が収益悪化に直結します。
近年、クリニックの開業が増加している地域や、近隣に大規模な病院が進出してきた地域などでは、患者獲得競争が激化しています。自院の強みや特徴を明確にし、他の医療機関との差別化を図らなければ、患者から選ばれにくくなってしまいます。
「良い医療を提供していれば、患者は自然と集まる」という時代は終わりつつあります。自院の診療内容や特徴、強みを地域住民や近隣の医療機関に効果的に伝え、認知度を高めるための広報・マーケティング活動が不可欠です。しかし、多くの病院では、広報活動に十分なリソースを割けていないのが現状です。WebサイトやSNSの活用、地域イベントへの参加など、多角的なアプローチが求められます。
新規患者を獲得することと同様に、既存の患者に継続して受診してもらうこと(リピート率向上)も重要です。待ち時間の短縮、丁寧な説明、快適な院内環境など、患者満足度を高めるための地道な取り組みが、口コミによる評判向上や患者の定着につながります。患者アンケートなどを活用し、課題を把握・改善していく姿勢が求められます。
医療現場の専門性は高くとも、経営に関する知識やスキルが不足しているために、適切な経営判断が下せないケースも少なくありません。
長期的な視点や明確なビジョンに基づいた経営戦略がないまま、目先の課題に追われる場当たり的な経営判断を繰り返していると、根本的な問題解決には至りません。
例えば、人手不足に対して安易に高額な給与で人材を採用したり、十分な費用対効果の検討なしに高額な医療機器を導入したりすると、かえって経営を悪化させる可能性があります。
勘や経験だけに頼った経営ではなく、客観的なデータに基づいた現状分析と将来予測が不可欠です。診療科別の収益性、患者動態、コスト構造などを詳細に分析し、課題を特定した上で、具体的な改善策を立案・実行していく必要があります。しかし、データを収集・分析するための体制やノウハウが不足している病院も多く見られます。
経営層が描くビジョンや戦略が、現場の医師や看護師、スタッフに十分に共有・浸透していない場合、組織としての一体感が生まれず、改革が進まないことがあります。また、現場の意見や課題が経営層に届きにくい風通しの悪い組織も問題です。 経営層と現場が共通認識を持ち、協力して課題解決に取り組む体制づくりが重要です。
ここまで病院経営が赤字に陥る原因を見てきましたが、これらの課題を克服し、黒字化を実現するためには、どのような対策を講じれば良いのでしょうか。
ここでは、具体的な5つのポイントを解説します。
収益改善と同時に、支出を見直し、無駄をなくす努力も不可欠です。コスト削減と業務効率化は、黒字化に向けた第一歩となります。
まずは、医薬品や診療材料の在庫管理の最適化、共同購入によるコスト削減、不要な契約の見直し、節電・節水など、あらゆる経費項目を精査し、削減できるポイントがないか徹底的に洗い出しましょう。部署ごとにコスト意識を高める取り組みも有効です。
例えば、以下のような項目をチェックします。
これらの項目を定期的に見直し、より有利な条件での契約や、無駄な使用の削減を検討することが重要です。
電子カルテシステムはもちろんのこと、予約システム、Web問診、自動精算機、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などを導入することで、事務作業の負担軽減、待ち時間の短縮、ヒューマンエラーの削減などが期待できます。これにより、スタッフはより専門的な業務に集中でき、生産性の向上が見込めます。初期投資は必要ですが、長期的な視点で見れば人件費削減や業務効率化によるメリットは大きいでしょう。
ノンコア業務(専門知識を必要としない、または定型的な業務)については、外部に委託(アウトソーシング)することも有効な手段です。例えば、清掃、給食、経理、人事労務、医事業務の一部などを外部委託することで、コスト削減や業務品質の向上が期待できる場合があります。
ただし、委託先の選定や管理体制の構築は慎重に行う必要があります。
病院の収入の根幹である診療報酬を最大化し、さらに新たな収益源を確保することで、安定した経営基盤を築きます。
診療報酬の算定漏れは、そのまま収益の損失につながります。医事課スタッフのスキルアップ研修の実施、医師や看護師への情報共有、電子カルテシステムを活用した算定支援機能の導入、定期的なレセプトチェック体制の強化などにより、算定漏れを限りなくゼロに近づける努力が必要です。
診療報酬には、特定の施設基準を満たしたり、質の高い医療を提供したりすることで算定できる「加算」項目が多数存在します。自院で取得可能な加算項目をリストアップし、その算定要件を満たすための体制整備(人員配置、設備導入、研修実施など)に積極的に取り組みましょう。加算の取得は、医療の質の向上と収益増加の両面でメリットがあります。
保険診療に過度に依存しない収益構造を構築することも重要です。地域のニーズや自院の強みを踏まえ、健康診断や人間ドックの拡充、予防医療サービスの提供、美容皮膚科などの自由診療科目の導入、あるいは院内売店やカフェの運営など、新たな収益源となり得る事業を検討しましょう。
ただし、保険診療とのバランスや、医療機関としての信頼性を損なわないよう注意が必要です。
人材は病院経営における最も重要な資源です。優秀な人材を確保し、その能力を最大限に活かせる環境を整えることが、持続的な成長につながります。
採用難の時代においては、人材を「採る」こと以上に「辞めさせない」ことが重要です。適正な給与水準の設定はもちろん、働きがいのある職場環境(良好な人間関係、キャリアアップ支援、福利厚生の充実など)を整備し、従業員満足度を高めることが、離職率の低下と定着率の向上につながります。定期的な面談やアンケートを通じて、従業員の意見を経営に反映させることも有効です。
医師、看護師、薬剤師、リハビリスタッフ、事務職員など、様々な専門職がそれぞれの専門性を活かし、スムーズに連携・協働することで、チームとしてより質の高い医療を提供し、業務全体の生産性を向上させることができます。定期的なカンファレンスの実施や情報共有ツールの活用などにより、円滑なコミュニケーションと連携体制を構築しましょう。
医師の業務負担を軽減し、専門性の高い業務に集中できるよう、看護師や他の医療専門職、あるいは事務職員へ業務を移管・分担する「タスクシフト/タスクシェア」を積極的に推進しましょう。これにより、医師の長時間労働の是正や、チーム全体の業務効率化が期待できます。各職種の業務範囲や法的規制を遵守しながら、計画的に進めることが重要です。
地域における自院の存在価値を高め、患者から選ばれる病院となるための取り組みを強化します。
地域のクリニック(診療所)や介護施設、訪問看護ステーションなどとの良好な関係構築は、患者紹介の促進や、入退院支援、在宅医療とのスムーズな連携につながります。紹介元の医師やケアマネージャーとの定期的な情報交換や勉強会の開催などを通じて、「顔の見える連携」を深めましょう。
地域包括ケアシステムの中で、自院が果たすべき役割を明確にすることも重要です。
現代において、患者はインターネットで情報を収集してから医療機関を選ぶことが一般的です。分かりやすく、最新情報が掲載された公式Webサイトの整備は必須です。さらに、ブログやSNS(Facebook, Instagram, X(旧Twitter)など)を活用し、診療内容、医師紹介、健康情報、病院の取り組みなどを継続的に発信することで、地域住民への認知度向上や親近感の醸成につながります。
専門的な知識がなくても更新できる体制づくりや、必要であれば外部の専門家の活用も検討しましょう。
紹介元の医療機関や患者さんからの紹介を増やすためには、紹介してくれた方への感謝の気持ちを伝えるとともに、紹介患者さんをスムーズに受け入れ、質の高い医療を提供し、その結果を紹介元へ丁寧にフィードバックする、という一連の流れを仕組み化することが重要です。
紹介患者専用の窓口設置や、紹介状への迅速な返信体制なども有効です。
勘や経験だけに頼るのではなく、客観的なデータに基づいて経営状況を分析し、戦略的な意思決定を行うことが、持続的な黒字経営を実現する鍵となります。
まずは、自院の経営状況を正確に把握するために、様々なデータを収集・分析し、「見える化」することが重要です。診療科別・医師別の収益やコスト、病床稼働率、平均在院日数、紹介率、患者満足度などのデータを集計・分析し、経営上の重要業績評価指標(KPI: Key Performance Indicator)を設定しましょう。これにより、課題の特定や目標達成度の測定が容易になります。
設定したKPIを定期的にモニタリングし、経営会議などで分析結果を共有します。目標値とのギャップや問題点を明らかにし、それに対する改善策を立案・実行します(Plan)。そして、実行した結果を評価し(Do→Check)、さらなる改善につなげる(Action)というPDCAサイクルを確立し、継続的に経営改善に取り組むことが重要です。
経営分析や戦略立案に関するノウハウが院内に不足している場合や、客観的な視点からのアドバイスが必要な場合には、病院経営に詳しい外部のコンサルタントを活用することも有効な選択肢です。専門家の知見を借りることで、自院だけでは気づかなかった課題の発見や、効果的な解決策の導入につながる可能性があります。ただし、コンサルタントに丸投げするのではなく、主体的に関与し、共に課題解決に取り組む姿勢が重要です。
病院経営が赤字に陥る背景には、診療報酬改定への対応、人件費の高騰、設備投資負担、集患戦略の不足、経営戦略の不在など、複合的な原因が存在します。しかし、これらの原因を正しく分析し、自院の状況に合わせて適切な対策を講じることができれば、黒字化への道は必ず開けます。コスト削減と業務効率化、収益構造の改善、戦略的な人材マネジメント、地域連携とマーケティング強化、そしてデータに基づいた経営戦略の実践。これらのポイントを着実に実行し、地域医療に貢献し続けられる、持続可能な病院経営を目指しましょう。
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この記事を書いた専門家(アドバイザー)
著者情報 柴田雄一
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役
米国MBA留学後大手経営コンサルティング会社を経て2004年当時では珍しかった医業経営コンサルティングに特化したニューハンプシャーMCを設立。20年以上にわたる深い知見とユニークな視点からの具体的な支援がクライアントからの高い信頼を獲得し続けている。またそのユニークな視点を言語化した医業のマーケティング、スタートアップ(開業)、マネジメントをテーマにしたプロフェッショナルシリーズをそれぞれ出版し、影虎(本の登場人物の経営コンサルタント)ファンも数多い。
南ニューハンプシャー大学経営大学院(MBA)卒