医療経営プロフェッショナル柴田雄一「ニューハンプシャーMC」

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経営学の使い方 (42)

経営を勉強するということ

医師という職業に就いている人からすれば当たり前かもしれませんが、そうでない人から見ると、医師は皆さん、とてもよく勉強されます。そもそも、人より高い偏差値を取っていなければ医学部には入れません。つまり、幼少の頃から勉強習慣が自然と身に付いているのだと思います。医師免許取得後も専門医資格試験やその他研修会などで常に研鑽しなければならない環境に身を置いています。逆に勉強しないと不安だと感じることもあるようです。 

そのようなこともあってか、ご自身で開業することになると“経営”について猛勉強しはじめる先生も少なくありません。参考図書を購入すべく書店に行って、経営というコーナーを見ると、戦略やマーケティング、アカウンティングなどの本が並んでいます。しかし、それぞれが専門書です。結局、先生方がそれで“経営”を勉強することになると、多くの人たちが専門過ぎることもあって挫折してしまいます。しかも、その専門すぎる知識を得たとしても使う場面に遭遇することは、診療所の経営をする上ではほぼないでしょう。 

経営者にとっては、すべての分野において専門家になる必要はありません。税理士をはじめとする専門家に対して、的確な問いを投げかけながら、指示を与えていく程度の知識でも十分なのです。その知識は、アメリカのビジネススクールを中心にして実学領域として体系化されてきました。世に言う「MBA」です。この経営学修士号を修得するために学ぶ科目は、経営戦略、マーケティング、アカウンティング、ファイナンス、ヒューマンリソースマネジメント、オペレーションマネジメントなどを必修科目に、選択科目としてアントレプレナーシップ(起業)マネジメントや定量分析、リーダーシップ、情報システム、国際経営学など広く深く多岐にわたっていきます。 

実際に使えるの?

MBAで体系化されているものは、そもそも一般のビジネスがベースです。しかし、医療経営の現場でも使える知識は多くあります。例えば、「経営戦略」の領域については、開業時や2施設目の開設、また介護などの事業展開をする際などに、ここで学ぶ分析や事業評価の方法、そして競争優位に運ぶ戦略フレームワークが考え方の切り口として役に立ちます。 

一例を挙げると、「事業ポートフォリオ」という考え方です。これは、事業単位で成長率やマーケットシェア、そして相乗効果の度合いなどを複合的に評価し、事業の選択と集中をして経営資源の配分決定をするものです。今、医療機関で介護事業を行っているところが少なくありません。こうした評価方法を知っていれば、意思決定の一つの材料とすることができるのです。 

また、「マーケティング」の領域も経営現場では使える知識のひとつです。医療機関同士で競争(患者のシェアの奪い合い)が発生している昨今では、どれだけ競争優位にもっていけるかが重要になります。都心部では、医療機関も飽和状態で、患者数が1日平均30人に満たないところがどんどん増えています。「3C分析」と呼ばれる顧客(Customer)、競合(Competitor)、自院(Company)という軸で環境分析を行い、きちんとターゲットを決めて診療内容を設定し、プロモーション(広告宣伝や認知促進活動)を行い、ポジショニング(位置付け)さえ間違わなければ、数年たっても1日の患者数が30人未満というのはあり得ない話なのです。 

それ以外の領域でも、「アカウンティング」で財務諸表の役割と仕組みを理解するだけでもよいですし、「ヒューマンリソースマネジメント」には組織論や個人のモチベーションを高めるためのインセンティブ方法など、労働集約型で成り立つ医療の世界において役に立つ内容が詰まっています。まずは「MBA」というタイトルが付いた本などで、全体像を拾い読みしていくところから始めてみてはいかがでしょうか。 

株式会社ニューハンプシャーMC 
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一