医療経営プロフェッショナル柴田雄一「ニューハンプシャーMC」

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意外と知らない消費税負担 (54)

仕入控除できない消費税

消費税が今年4月に8%へ引き上げられます。さらに、2015年10月にはプラス2%アップも検討されています。増税により消費者マインドの低下による消費低迷を危惧する声も聞かれます。ただ、保険診療は非課税ですから(自費診療は課税対象)、患者負担はあまり変わらないため、医療機関にとって直接影響を受けるわけではないとつい考えがちです。しかしながら、医療をはじめ、学校教育、社会福祉事業など非課税取引が中心の業界にとっては思いのほか大きな負担を強いられます。 

そもそも消費税とは消費者が負担するものです。事業者が国に代わって徴収し、それを納める税金ですが、事業者であっても何かを仕入れたり、設備などを購入したりする際には消費税がかかります。ただ、徴収分と負担分の差額を納付する(マイナスの場合は還付される)ので、事業者の消費税負担は実質ありません。このように、課税取引のある事業者は、売上に対する消費税から仕入れにかかった消費税を控除することができますが、医療機関では保険診療対象の患者から直接消費税を徴収していないので、控除することができないのです。 

また、非課税とされている保険診療においても、実際には1989年の消費税導入時と97年の3%から5%への引き上げ時に、それぞれ診療報酬改定で本体部分や薬価・材料で計1.53%の上乗せが行われています。つまり国は、その上乗せ分で医療機関が負担している消費税分は補填できているという立場を取っているといえます。しかし、ある調査によると、病院や診療所など規模にかかわらず、控除されない消費税が保険診療収入に対して2%を超えており、その差分を医療機関が負担していることになるのです。しかも、上乗せされた診療報酬項目がその後の改定でマイナス改定の対象となったり、包括化されたり、項目そのものが廃止されたりして実質の上乗せは1.53%になっていないので、医療機関の消費税負担は増すばかりです。その上に今回の増税となるのです。 

死活問題の消費税増税

この消費税増税は利益率の低い医療機関にとっては死活問題です。一般病院全体の医業収入対利益率は数年前の調査で0.5%となっています。つまり、1億円の医業収入があっても最終的に利益として残るお金が50万円ということです。医業外収支も合わせた経常利益率は0%で、一般病院全体で見れば利益が出ていないことになるわけです。そこからの税負担となるので、マクロ的に見ればマイナスになってしまいます。また個別に見ても、課税取引の大きい総合病院クラスでは現行税率でも年間数億円の消費税を負担しており、増税でさらに数億円が積み上がるため、設備投資の多い病院では負担分をシミュレーションするなど、すでに病院においてはその備えや対応に追われています。 

それに比べて取引額が小さな個人診療所においては、それほど影響を受けないと考えられているためか、経営者もそのあたりの意識も薄いように感じます。潤沢な資金の蓄えがあって利益も十二分に出ているような医療機関はともかく、経営者としてはある程度の備えておくことは必要です。そこで、まずはシミュレーションして、どの程度の負担増になるのかを把握してみてください。 

計算は簡単です。税理士から配布される損益計算書の医業費用を見てください。総額から給与費、減価償却費など消費税がかからないものを控除し、そこに増税分3%を乗じると、新たな設備投資などがなければ、それが上限負担額となります。医薬品など薬価に転嫁されて実際に医療機関が負担していないような費用もあったり、診療報酬も定まっていなかったりするので、その精度は高くはありませんが、数字となって表されるので実感がわわくはずです。消費税は年金、医療、介護などの福祉目的税です。その増税の是非や課税制度批判はここでの議論ではありません。数字を出して備えてみてはいかがでしょうか。 

株式会社ニューハンプシャーMC 
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一