医療経営プロフェッショナル柴田雄一「ニューハンプシャーMC」

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士業の独占業務を知っていますか? (76)

経営者の相談相手

「経営者は孤独である」といわれます。組織の全責任は経営者が負うことになります。個人事業ならば最高であり最終の意思決定権者で、頼れるのは自分しかいません。情報量も組織に属している時に比べて圧倒的に減ってきます。それで孤独と感じてしまうのでしょう。孤独感が強い経営者ほど、傾向としてやらないことがあります。「相談」です。医師としても臨床の現場では意思決定権者です。ある手術室における医療事故のレポートを読むと、医師という立場もあって、自分の知識の範囲を超える想定外のことが起きたとしても近くにいる看護師などに相談せずに対処し、事故につながったというケースがあります。誰かに相談すれば防げたものも多くあるということのようです。 

職業柄なのかどうかは分かりませんが、医療機関の経営者は、特に「相談」することを躊躇する傾向にあると感じます。とはいえ、経営していれば、専門的な意見を求めたり、心の安定を維持するためだったりと、相談事は発生します。となると、一番身近にいて経営に関与している人ということで、税理士が相談相手になることが多いようです。優秀な税理士は経理や税務の知識だけでなくそれ以外の相談にも対応できるよう幅広い知識を身に着け、クライアントのニーズを受け止めています。しかし、やはりそれも専門家ではないので、限界があります。相談を受け止められるだけの知識と経験に関しての限界だけではありません。有資格でなければできない業務に対しての限界です。例えば、処方せんの発行は医師、歯科医師、獣医師のみしかできません。私のような無資格者は、当然ながら、他人に注射一本打てません。このように資格者しかできない業務で、かつ経営に関係してくることも多く存在します。それを行うのがいわゆる士業といわれる人たちです。 

士業と独占業務

経営に関係してくる士業といえば公認会計士、税理士のほかに、弁護士、司法書士、行政書士、弁理士、社会保険労務士などです。会計士や税理士、弁護士は知名度も高く業務内容もイメージしやすいようですが、そのほかは、独占業務が何かを理解している人はそれほど多くありません。

まず、司法書士は、登記や供託の代行手続きができます。裁判所などに提出する書類作成、成年後見人などの管財管理も行うことが可能です。医療機関では未払いの医療費である債権回収代行や、医療法人設立で関わることになります。なお、行政書士も医療法人設立代行が可能で、行政への許認可申請や他の法律で制限されていない契約書類の作成なども行います。医療機関では保健所との関わりが多いため、その間に入ってもらうことが多くなります。弁理士は産業財産権などに関する業務を行います。医療機関名などをもし登録商標したければ、お世話になるくらいでしょう。

社会保険労務士は、社会保障法令や労働関連の法令に関する書類作成・申請代行ができます。医療機関では会計士や税理士に次ぎ、接点機会が多くなります。スタッフを雇用すれば、労働基準監督署、ハローワーク(公共職業安定所)、年金事務所(旧社会保険事務所)と関わることになります。スタッフの給与計算や採用・退職時の手続きなど事務的な業務も頻繁に発生します。さらには、医療機関経営者の一番の悩みの種ともいえるスタッフとの労使問題での窓口にもなります。それゆえ、社会保険労務士だけはスキルの高い人に依頼したほうがよいと力説する院長も少なくありません。

私が経営や開業の支援を行う際、クライアントには必ず契約前にこの独占業務について理解していただきます。実務としてできても法的に規制されていることを知らないと、クレームにつながるからです。誰に何をどのタイミングで依頼するかという相談までが私の業務です。私のような相談相手がいなければ、自分で探して依頼することになります。何かに備えて、まずは士業の業務範囲と得意分野を把握しておいてはいかがでしょうか。

株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一