医療経営プロフェッショナル柴田雄一「ニューハンプシャーMC」

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お辞儀の角度まで必要ですか? (65)

接遇にお辞儀の角度は必要か?

“患者さん”から“患者様”に呼び名が変わりはじめた頃から特に、医療機関で「接遇研修」を行うことが多くなりました。また、叱咤する姿が特徴的な女性のマナー・接遇講師がマスコミに取り上げられたこともあり、接遇研修というものが世間にも認知されました。その影響もあって、医療機関でも接遇研修というと、ホテルや航空会社の客室乗務員のような接客をイメージするようになります。接遇研修を提供する側も親会社が航空会社だったり、元客室乗務員の講師が独立して研修事業を行ったりする場合が多いのも事実です。 

私のところにも、職員の接遇を向上させたいという要望が途絶えることはありません。前述した女性講師のようなイメージを持たれて、研修の依頼をいただくこともあります。美容外科など自費診療を前面に打ち出しているところであれば、そうした接客レベルが必要かもしれません。しかし、保険診療がメインの医療機関に本当にそれが必要かを、依頼主にはあらためて確認するようにしています。それを問われた側は、一瞬戸惑いの表情を見せながらも「必要です」と答えます。そこで、また別の問いかけをします。それは、医療機関にとってお辞儀の角度を徹底することが本当に大事かどうかです。そうなると、大半が「ちょっと違う」との反応になってきます。 

どういうことかというと、医療機関には「いらっしゃいませ」はありません。また、患者が医療機関を出る際に「ありがとうございました」とも言いません。頭を下げるのは軽く会釈する際や、苦情やクレームが発生して「申し訳ございません」と謝罪するときなどです。その際に対応する側が悪いと思えば、自然と頭を下げるはずです。人として当たり前のことだと思うのは私だけでしょうか。それこそ、これすら教えなければできない人材が、医療機関に必要な戦力になり得るのか疑問です。とはいえ、いまだに他社の接遇研修にはお辞儀の角度が入っているのが散見され、「会釈15度、敬礼30度、最敬礼45度、クレーム対応時90度」と繰り返し練習させられることになります。

満足感と安心感の違い

そもそも接遇の意味は、人をもてなすことです。一方で接客とは客への応対をいいます。通常の接客は短い限られた時間接点で、よい印象を与えて次の商売につなげていくことが第一の目的です。多くの人がイメージする接客のプロの代表格であるホテルや客室乗務員などは、まさにその典型です。つまり、客の満足感を高め、気持ちよく帰ってもらうことが大事になります。 

しかし接遇、とりわけプライマリケアなどが中心の医療機関の接遇は、繰り返しの接点があり、長いスパンになることも少なくありません。さらには、医療機関では患者に安心感を持って帰ってもらうことが重要になります。「満足感」と「安心感」、「短い接点」と「継続的な接点」という違いが接客と接遇にはあり、根本的に目的が違ってくるのです。そうなると、接客技術をベースしている研修では、本来必要となるところにズレが生じてきてしまうのは当たり前のことだと思うのです。診察室からの退出時、また施設の出口での去り際に90度のお辞儀を教科書通りにされたとしても、医療機関に大事な安心感は生まれてきません。 

今は、地域によっては医療機関も増えて市場原理にさらされています。クリニックなどは数も多く、患者側に選択肢があります。となれば、すぐに他の施設へ移ってしまうこともできてしまいます。だからこそ、患者さんから患者様への呼称の変化が起きたのではないでしょうか。つまり、基本的な言葉づかい、所作などのマナー教育も必要とされています。ただし、“接客技術”によらない“接遇”を行う必要があるため、もし外部から教える人を呼んで研修機会を設けようとする際は、“安心感”というキーワードを講師やコンサルタントへ伝えるとよいのではないでしょうか(自ら院内で研修を行う際も同様です)。 

株式会社ニューハンプシャーMC 
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一