医療経営プロフェッショナル柴田雄一「ニューハンプシャーMC」

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組織図①(279)

■組織図は必要か?

「貴院に、組織図はありますか?」 

市中にある院長一人+αで診療を行っているような個人経営の診療所で組織図を作成されているところはあまり見受けられません。何百床の規模の病院ともなれば、さすがに組織図がないということはありません。個人開業後に勤務医を雇い入れたり、分院展開したりするなど規模を拡大してきているようなところ、もしくは19床以下の有床診療所などの規模感の組織などでは、組織図があったりなかったりします。 

どの規模においてもそうですが、組織図がない理由としては、必要性を感じないからです。看護師、事務合わせても数名程度の規模で、職員全員がフラットな関係であれば組織図を作るのはいささか大げさに感じるでしょう。また職員は増えてきて組織が拡大していたとしても、院長一人のトップダウンですべての意思決定がなされ、それに基づいて組織が動いていると思っていれば必要性は感じません。逆に組織図作成の必要性を感じる時はどんな時でしょう。公益財団法人 日本医療機能評価機構が行っている病院機能評価の受審に伴って組織図が必要になる等、外的な要因である場合もあれば、組織全体および部署内における指揮命令がうまくいかなくなった時、また部署間の連携が円滑に機能しなくなったと感じた時などに改めて組織再編によって改善を図る等の内的に発生する動機があります。 

なお組織図は、作った方が良いのでしょうか?筆者の答えとしては、人ひとりがマネジメントできうる人数を超えてきたと感じたならば作成したほうが良いと思われます。そのほうが経営効率は上がるはずです。そもそも“組織”とは、複数名以上で共通の目的や目標に向かって何かを起こす際に必要な分業と連携のためのシクミです。必要とする複数業務を複数人で分担することで専門性が高まり各人の能率が向上します。また分担された複数の人々が円滑に仕事を行っていけるよう調整すれば連携も取れて効率が上がってきます。 

■マネジメントできる適正人数は?

さてマネジメントできうる上限、もしくはチームとして最もうまく機能する人数は何名くらいなのでしょうか。例えば、近代の軍事に置き換えればアメリカ陸軍における一般的な歩兵分隊は分隊長となる軍曹が1名、射撃班長となる伍長2名、小銃手2名、軽機関銃を扱うSAW(分隊支援火器)手2名、グレネードランチャーといった迫撃砲を小型化したような火器を扱う擲弾筒手2名の計9名で編成されています。また分隊の上の組織で少尉もしくは中尉が指揮官を務める小隊は30~40人の3~4分隊で編成されており、更に中隊、大隊(連隊)、そして旅団となってもそれぞれが3~5隊で編成されるようになっています。軍事目的に応じて異なりますが、第一線で戦うことになる歩兵(ライフル)分隊で目的を果たすために効率よく機能する役割分担と人数配置なのでしょう。また指揮命令系統が機能するのは3~5名が適切だということでの組織形態なのだと思います。 

またビジネスの世界を例にあげるとAmazonのCEOジェフ・ベソスが「2枚のピザ理論」を提唱しています。これは社内におけるチーム編成においては2枚のピザを食べ分けるほどの人数がイノベーションを生み出すに相応しいというのです。アメリカサイズのピザであれば上限8人くらいでしょうか。少人数だとフラットな関係性になってきやすくなります。トップダウンが機能するのであれば人数は関係ありません。一方で一人だけの考えや意見が組織にとって全て最適解を導けるとは限りません。それよりも複数人の考えや意見、知識や知恵を持ち寄った中からリーダーが最良の選択をしたほうがより良い結果を生み出す可能性は高くなるのではないでしょうか。チームの人数が多くなっても関係性がフラットなままだと、大人数に隠れて仕事をさぼる人や個人の思考を停止させて他者に同意することを優先させてしまうことになります。次回も続けて同テーマを扱います。 

株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一