医療経営プロフェッショナル柴田雄一「ニューハンプシャーMC」

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病医院経営者の「採用」の悩み(34)

「採用」にどれだけコストと労力をかけているか

病医院経営者からの相談で最も多いテーマの一つが「採用」です。病医院の場合、医師、看護師、技師、薬剤師、ソーシャルワーカー、事務などと職種が細かく分かれており、それぞれのアプローチや採用ルートが異なってくるので、採用活動は一般企業に比べて業務量も増えてきます。それにもかかわらず、案外と職員数が多い病院であっても、「人事部」が設置されていません。

必然的に、誰かが人事部門的な仕事はやっています。医師は院長、看護師は看護部長など、その職種の管理者が役割を果たしていたり、事務長や総務課がその任を受けていたりします。病院の事務長という役割は、一般企業からすると少し特殊です。事務長は、経営企画から人事、総務、医事、財務経理など全てを統括しています。一般企業で少し大きな組織であれば、人事部長、総務部長、財務部長など各セクションに責任者がおり、事務長というくくりで1人でこなす業務量・知識量ではないはずです。従って、採用に関しては、どのような人材を何人採用するのか組織として決定した方針に従い、専門部隊である「人事部」が求職者を集め選考を行います。

医師不足、看護師不足といわれる現在、ある病院の理事長は、医師を集められる院長が良い院長で、看護部長や事務長も同様だとお話しされていました。医療は人がいなければ成り立たない労働集約型なので、それも間違いではないのかもしれません。とはいえ、それぞれの立場があり役割もあるため、採用が本業とはならないはずです。つまり、片手間になってしまう可能性が高いのです。

「採用」はマーケティング理論で語れる

そこで病院組織においては、人事部門という部署を設けるかは別にして、私は採用の専任者を置くように進言しています。適任者は営業力のある人です。営業力といっても、モノを買わせる能力というより、価値を伝えることができる能力です。つまり、コミュニケーション能力が高くなければ営業職は務まりません。

「採用」というのは、実はマーケティング理論でほぼ語れるのをご存じでしょうか。営業もマーケティングの一つであり、方法論が同じなのです。実際にある企業では、営業成績がトップの人を人事部長にするところさえあります。企業全体の売上は一時的に落ちます。しかし、その元営業マンが企業の価値を伝え、それに共感する同じ志を持った能力の高い人材を集めてくれるので、結果的に売上につながるというわけです。

ついでにお話しすれば、営業力のある人には、恋愛上手(モテる)な人も多いものです。「営業」と「恋愛」「採用」は同じ論法です。例えば、まだ好きな人も候補者もいないゼロの状態でのご自身を想像してみてください。意識的に恋人を見つけるためにするべきこと、まずは人との出会いが必要です。友人知人からの紹介、合コンや結婚相談所、料理教室でもよいかもしれません。多くの人に会えれば、それだけ魅力的な人に会える確率は上がります。次は自分に振り向いてもらえなければなりません。自分の魅力を伝えていく必要があります。“美女と野獣”という言葉があります。人は見た目だけで判断されるものでもありません。そして、2人での時間を過ごして告白となります。

「営業」も消費者と売るモノとの出会いの演出です。「採用」でも求職者と求人者との出会いの演出です。どうすれば、できるだけ多くの求職者(潜在求職者含む)に会えるのか、また自院の魅力を伝えられるのか、そして、その他大勢から選ばれるようになれるのか。アプローチは同じです。

「恋愛」には運命の出会いというものがあります。活動しなくても“たまたま”出会うケースがありますし、いくら頑張っても付き合えないこともあります。それは1対1だからです。しかし、採用は複数ですから確率論です。つまり、プロセスに沿って動くことがよい採用をする上での第一歩だと思って行動してみてはいかがでしょうか。

株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一