2018年も終わる頃、いよいよ新規開業の制限が始まるかと周辺がざわつきました。厚生労働省が12月26日に「医療従事者の需給に関する検討会」医師需給分科会にて、外来医療(診療所医師)の偏在対策として、二次医療圏単位における「外来医師多数区域」を設定し、同区域で開業する要件として、在宅医療、初期救急医療、公衆衛生など「地域で不足する医療機能」を担うことを合意する旨の記載欄を設ける方針を提示しました。
「外来医師多数地域」となる診療所過多の競争環境が激しい地域を示すことで、そういった地域への新規開業を避けさせる狙いがあります。また在宅医療や初期救急医療などを課すことによって、更に参入障壁をつくっていくこととなり、これは事実上の新規開業制限だという話になっているのです。一番の目的は、診療所の偏在解消ではあるものの、厚労省側としては開業制限ではないと述べています。そもそも当分科会から2017年末に自由開業自体について初めて触れて、一定の制限の必要性が俎上にあがってきました。これは医師の地域偏在は自由開業にあるからだという考えがベースにあります。ただし、開業制限となると、日本国憲法第22条から特定の職業を営む自由つまり「営業の自由」に抵触する可能性があるのです。ちなみに直接「営業の自由」といった表現は記載されていないので、あくまで通説となっています。
とはいえ、当分科会からの資料によれば外来患者の約6割が受診する無床診療所は都市部に偏っており、二次医療圏における10万人対無床診療所数は1位「東京都・区中央部」が248.8で、最下位「北海道・根室」26.5となっており、約9.4倍もの差が出ています。また開業制限を行うにあたっては憲法に抵触すること以外にも、新規参入抑制にあたっての医療の質が低下する懸念や、駆け込み開業も懸念されています。一般的には新規参入がなくなれば競争も生まないので、質を上げるインセンティブが落ちます。しかしながら、東京の無床診療所のほうが医療の質が総じて高いとは言えません。ただ駆け込み開業は起きると考えます。実際に、過去病床規制を導入した時に起きています。
筆者は、これまで多くの開業支援を行ってきました。その中でも内科で東京都区内や神奈川県横浜市内、大阪市内、札幌市内など大都市圏で開業したいといった案件や、医科大学のおひざ元となるような地方都市での案件は、よりシビアな立地選定の判断を要しています。つまりは「外来医師多数地域」だからです。プライマリケアにおける新規開業で軌道にのるかどうかの一番の要因は、医師の腕ではありません。結局は立地で最初の患者数は決まってしまいます。
ただし、立地といっても、いくつか要素があります。まずは患者対象となる人口(昼間夜間)の大きさです。それによって地域の患者総数は決まってきます。そこから診療圏内における競合医療機関の数でシェアされていきます。そして建物自体の視認性が良いかどうかです。簡単に言えば、患者総数が多くて、医療機関数が少なく、そして人通りの多い場所を選ぶことができれば、患者は間違いなく集まります。そのためのジャッジを常にしている我々からすれば、クライアントとなる開業医視点にはなってしまうものの、供給過多となる地域での共存の道を模索していると言えます。
医師の偏在は大きな問題となっていることは間違いありません。しかし東京一極集中が進んでいるなかで医師だけが逆の流れを作るというのはやはり現実的には相当難儀する問題です。なお2019年1月30日の医療需要分科会で2036年度に「全国で医師需要を満たせるだけの医師確保を完了する」スケジュールが示されています。もちろん多くの課題を乗り越えての話ではあります。地域だけでなく診療科の偏在もあります。経営コンサルティングとしてまた国民の1人としてもこのニュースをウォッチしていきたいと思います。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一