Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

「持分なし医療法人」はいかがですか!? ① (71)


厚生労働省のキャッチコピー

こんな悩みをお持ちの医療法人の皆さまへ
「持分なし医療法人」への
移行を検討しませんか?

このコピーは、税理士や行政書士の広告ではありません。「持分なし医療法人」への移行促進策の案内という趣旨で厚生労働省によって製作されたパンフレットの一文です。さらに以下のような文言が続きます。
こんな悩みを解決するために、
「持分なし医療法人」への
移行を検討されてはいかがでしょうか?
しかも、今なら3年間限定で、
税制優遇措置や低利の融資が受けられます。
地域医療の要として、
今後も安定して医療を提供するために
ぜひ、ご検討ください。
医療法人とは、医療法の定めに基づき、医師(歯科医師)が医療・介護施設の開設・運営を事業目的に設立する法人のことです。医療法人には「社団」と「財団」があります。さらに医療法人社団は、「持分あり」と「持分なし」に区分されます。第5次医療法改正により、平成19年4月1日以降に設立された医療法人は、原則として持分のない医療法人となるので、自分の法人がどちらに属するのかはすぐに分かります。また、医療法人の設立動機は節税であることも多いため、院長ご自身の代で設立しているのであれば、持分の「あるなし」の意味もある程度は理解されているはずです。しかし、承継前の先生やこれから法人化を検討されている先生にとっては、よく分からない部分もあるのではないでしょうか。
誤解を恐れずに、その違いを簡潔に説明すると、「持分あり」の医療法人は解散時に残った財産を出資者同士(通常は、院長やその親族)で分け合うことができます。しかし、現行制度の「持分なし」になると、残余財産は国などに帰属することになります。個人事業のままであれば、財産は自身のものとなりますが、現行制度の医療法人では最初に出資した金額までとなるのです。

「持分あり」にもリスクあり

「医療は仁術」という歴史背景もあって、医療法人は株式会社などの純粋な営利法人とみなしてきませんでした。よって、売上から役員報酬、各種経費、そして税金を支払った利益(税引き後利益)を配当できません。しかしながら、旧法の「持分あり」であれば、解散時に分配できるため、結局は利益分配していることになるという議論によって、「持分なし」に移行されました。とはいえ、旧法の「持分あり」の医療法人もまだ現存しています。これは経過措置の下、“当分の間”その存続が認められているからです。ほとんどの院長は、国へ財産を帰属させる必要のない「持分あり」がよいと普通は考えます。「持分あり」の医療法人売買も実際に行われており、数百万から数千万円で取引されています。つまり、買う側はそれくらいの価値を見込んでいるということになります。

そのような理由から、「持分あり」から「持分なし」への移行も遅々として進みません。そのため厚労省は、移行促進策として冒頭の策を打ち出してきました。メリットばかりに思える「持分あり医療法人」ですが、そのメリットがデメリットになることもあります。例えば、出資者が複数人いたとします。法人存続中に出資金の1人が亡くなり、相続人が払い戻しを要求してきました。その亡くなった方は、出資金1000万円のうち1/4(250万円)を出資していたとします。長年やっていれば資産も膨らんできます。仮に不動産などを合わせて純資産金額が4億円という評価となれば、その1/4の1億円相当を払い戻す必要があり、通常、充当することは厳しくなります。そういったリスクを避けるためにも、2014年10月1日から3年間限定で、税制優遇措置と低利の融資制度を設けることにより、「持分なし医療法人」への移行を勧めているのです。具体的な内容については、次回に譲ります。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

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