今季、日米通算4000本安打を達成したニューヨーク・ヤンキースのイチロー選手。その年俸は、2013年時に2年総額13億円(以下、当時レート推定)となっています。08年には前所属チームのシアトル・マリナーズで5年総額100億円です。つまり、1年間の最高年俸が日本円で20億円となっていました。そのイチロー選手を年俸430万円(契約金4000万円)で獲得した球団がありました。オリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バッファーローズ)です。ドラフト4位で入団したイチロー選手は3年目で1軍に定着し、その後7年連続首位打者となり、年俸は5億円に達しました。そして、ポスティングシステムという、その頃導入されて間もない入札制度によって、シアトル・マリナーズは13億円を超える金額で落札しました(年俸とは別)。
プロ野球もメジャーもビジネスです。投資効果を見込めるからこそ成り立ちますつのです。資金力のある球団は“実績”をこのようにして買えますが、そういう球団ばかりではありません。その場合はドラフトから育てたり、実績に劣る年俸の低い外国人選手を引っ張ってきたりすることになります。
その典型的な球団が広島東洋カープです。選手の年俸総額セパ両リーグ通じて1位の阪神が35億円に対し、12球団最下位の14億円です。これはFA選手を他球団から積極的に獲得することなく、自球団からFA宣言しても金額を上乗せしてまで無理に引き止めないからです。また過去には、ドミニカやベネゼエラなど中米に野球学校を開設し、そこを通じて有能選手を日本へ連れてくることもしていました。その上、多くの球団が赤字経営で親会社からの補填に頼る中、きちんと毎年利益を出している数少ない球団なのです。親会社を持たないとされる市民球団ならではの効率化経営です。しかも今季は年俸総額上位組の巨人、阪神に次いでセリーグ3位とAクラス入りを果たしています。
プロ野球ビジネスは、病医院経営と同じ労働集約型産業で人件費が経費の多くを占める、人に依るビジネスです。病医院経営者も球団経営者と同様に人の採用について、将来性を見込んだ新規採用を重視するのか、実績や経験を重視した中途採用とするのか、いずれにしても医師や看護師など職種ごとに採用戦略設定を行うこととなります。
野球選手を評価する軸は、打者なら走力、打力、守備力です。投手ならば、スタミナ、コントロール、スピードなどになり、これらはすべてが数字で表され、定量的な評価ができます。しかし、病医院採用においてそうはいきません。だとしても、やはり基本となる評価軸は必要です。そこで、三つの基本軸を示すことにしています。
まず「経験」です。その仕事を始めて、またその専門領域に携わっての経験年数や回数です。次に「技術」です。技術とは、学ぶことで得られる知識や経験を通して高まってくるものです。そして最後に「センス」です。技術は、経験に“比較的”比例します。しかし、センスのよい人材は短時間で経験者の技術をすぐに越えていきます。多くの経営者は、費用対効果の高い430万円時代のイチローを採用したいと思うもの。ただ、そう簡単ではありません。そこで、センスを三つに分解して人を推し量ります。「素直」「勉強好き」「プラス発想」です。これは、経営コンサルタントである船井幸雄が語る成功の3条件です。この3条件を経営者に伝えても、それを否定する人はまずいません。センスのよい人は、この三つかまたはその一つが常人を超えているので、それを評価するのです。これらの測り方は別の機会に譲るとします。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一