3月中旬の執筆時点において、ウクライナの情勢はまだまだ緊迫しており、余談を許さない状況となっています。ちなみにここ何年かは、世の中の情勢がめまぐるしく動いているため、頻繁に今回のように『執筆時点では』と断りを入れないといけないほどです。このような不安定な情勢もあり、円高が加速し、株価が暴落、ガソリン価格の上昇、金の価格高騰、それ以外にもこれから様々な物が供給不足によって物価があがってくる見通しで、経済的にもしばらくは混乱局面が続くでしょう。
しかも第6波もピークアウトはしているもののまだその波は収まってはいません。東京や神奈川など首都圏で、コロナ疑いの発熱患者を積極的に受入れている医療機関では、22年の1月と2月の医業収入が例年の倍になる一方で、発熱外来を行っていない内科では、減少傾向にあります。また整形外科や眼科などでは、リハビリや白内障手術など不要ではないが不急という捉え方をするような医療を提供する科では減収傾向にあり、経営においても不安定な面をみせています。
このような不安定な情勢に必要なことが、『保全』です。意味としては、保護して安全にすることです。ちなみに似た様な言葉に『保守』があります。正常な状態を維持すること、風習や伝統を重んじ守ることで意味合いが違い、資産においては保全であり、設備等は保守となってきます。話を最初に戻すと、欧州で起きている動乱は、過去にも何度も繰り返しています。ある日突然隣国から侵略され、領土や財産が奪われてしまうことが日常茶飯事のごとく行われてきました。そのような歴史的な背景から、欧州の資産家は、資産は『形成』するよりも『保全』を優先すると言われています。そのため多額の資産を有する富裕層に提供する金融サービスを提供するプライベートバンキングは、欧州を中心に発展してきました。運用資産の預かり残高でも常に上位に入るのが、UBSやクレディ・スイスといったスイスを拠点とする金融機関です。また歴史のあるバンキングの多くがスイスです。
スイスは中立国としてその地位を長年保ってきたため、資産の安全な置き所となり、その結果プライベートバンキングが発達しています。以前の連載(234回「お金の授業④」)ですでに触れているとおり、プライベートバンキングやプライベートバンカーは資産を増やすことが第一の仕事ではなく、資産を減らさないよう、もしくは失わないよう保全することを主眼に置いていると言われます。
これまで日本はデフレーションです。日本人の給与は何十年もあがりません。とはいえ、100円ショップの登場が象徴するように物が安く手に入れられます。牛丼チェーンの低価格競争、ファストファッションも拡大し、眼鏡も今は1万円以下で作れます。日本ではデフレ脱却を図ってはみたものの、感染拡大によってそれは叶わずでしたが、世界的なインフレ圧力でその渦に呑み込まれていくことは想像に難くありません。
とはいえ、日本人の賃金があがってこなければ結局は所得が増えない中で物価があがるだけという“悪い”インフレになってしまいます。所得が増えずに更に現在所有する貨幣の価値が下がってしまいます。そこで保全という考え方が活きてきます。なお資産の保全については、235号「お金の授業⑤」でもお話していますが、保全のためには、時間、場所、対象資産の配分を行うことが原則です。
ちなみに自分でできなければ誰かにお願いするしかありませんが、プライベートバンカーに依頼するには純金融資産として欧州の本場のプライベートバンキングや優秀なバンカーだと最低でも5億とも10億とも言われています。なかなかハードルは高く、実際には日本の金融機関で提供しているような“なんちゃって”プライベートバンキングを利用しながら、自分で勉強していくしか身を守る術はないのかもしれません。いずれにしてもまずは、資産を保全することが必要だという認識を持ってください。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一