Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

今だからこそ見つめ直おす決算書②(209)


病医院の体力とは

新型コロナウイルスの影響により、外出の自粛要請、店舗休業要請、イベント自粛などが続き、多くの業種業態において経営的に厳しい局面を迎えています。それは病医院の経営も同様です。飲食店やスポーツジムなどと違って、社会インフラともなっている医業においては、休業要請の対象となっていないだけ他の業種のように収入がまったくなくなるということはありません。しかし、患者の診療抑制や感染者対策のために救急や初診受け入れ緊急でない手術の一時中止、専用病棟設置のための病床稼働率の低下、受け入れのための設備投資等もあって、軒並み減収となり厳しい状況となっています。

厚労省でも、独立行政法人福祉医療機構等からの融資が必要となっている病医院について5月診療分の診療報酬の一部概算前払い制度を実施しています。ただ2カ月後の本来の支払い時点で減額調整するということですので、融資を受けるまでの“つなぎ融資”として利用するもので、財務体力が乏しく、資金的な余力のない病医院にとっては、非常に助かる制度となっていることだと思います。またこれまでの蓄えで現時点ではやりくりできている病医院でも、漠然とした不安に苛まれている経営者は少なくないのではないでしょうか。
大半の人にとって今回は、不測の事態です。未知なるウイルスへの対応は、医療だけでなく、政治、経済どれをとっても先読みが難しく、手探りで進んでいいくしか今はありません。そういったときだからこそ、現状とその変化を把握しておくことが、備えにもなり、また漠然とした不安も払拭することとなります。“財務体力”と前述しましたが、何をもって体力があるとかないと言っているのでしょう。医業収入が年間100億円の病院は体力があって、医業収入の小さい1億円のクリニックは体力がないのでしょうか。大辞林では【体力】①継続的に物事を行うことができる、からだ全体の能力。特に、病気に対する抵抗力や疲労に対する回復力。②からだの運動能力。とあります。

貸借対照表の形

ここで使う【体力】を経営に置き換えてみれば、②運動能力の意味として売り上げや規模の大きさ度合いではなく、①の継続できる能力や、経営にとって良くないことへの抵抗力、回復力などを指します。よって大きな病院と小さなクリニックの売上や組織の規模に合わせて体力をみていきます。とはいえ、人でも体の大きさに関係なく、痩せている人もいれば太っている人もいます。健康的な筋肉隆々の人だっています。

経営実態は表向きの見た目だけではわかりません。そこで病医院の体力を見る際には、貸借対照表を確認します。そこでイメージしやすくするために、体型でイメージできるよう痩せ型、肥満型、筋肉質型の3つに分類してみます。まず痩せ型というのは、消費が大きく利益が生み出せず組織に財務的な蓄積されていない栄養失調の状態です。次に肥満型とは、脂肪分となる借金によって肥大している過大な投資を行っている状態です。そして3つ目の、筋肉質体型のような無駄のない均整の取れた体力のある財務状態です。
自院がどのような体型なのか判断する際に、貸借対照表の各数字を使って「自己資本比率」を調べていきます。その前に簡単に貸借対照表について説明します。手元に置きながら見ていただくのが良いでしょう。一般的な貸借対照表では、左側に「資産の部」右側には「負債の部」と「純資産の部」があります。資産の部には、すぐにつかえる現預金と1年以内に回収できる保険診療のような医業未収金などの「流動資産」と、1年以上保有する土地建物、医療機器などがあり、すぐに現金化しないもしくはできない「固定資産」の2つに分けられます。右側にある「流動負債」も1年以内に返さなければならない債務とそれ以上の期間で返済する「固定負債」があります。そして「純資産の部」ですが、返済義務のない自由に使えるお金と考えてください。次回これで体型判定を行います。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

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