Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

今だからこそ見つめ直おす決算書①(208)


人材募集からみる市況の変化

医療人材の流動化が大きくなっていると実感した事案がありました。2020年2月中旬に東京都内JR駅前5月に内科クリニック開業に向けてオープニングスタッフの面接を行いました。応募期間2週間で看護師2名、医療事務10名程度の応募があり、キャンセルもあって当日は全員でも10名を下回る結果となりました。看護師は常勤非常勤希各1名、医療事務は未経験者ばかりとなり、通常は行わない2回目の募集と面接を行いました。応募状況は相変わらず苦労した採用となりました。世の中が新型コロナウイルスの影響を受ける直前までは、好景気とも言われ有効求人倍率が過去最高になるなど、医療機関の採用は都心部にいくほど苦労していました。とはいえ、オープニングスタッフに限っては雇用状況が厳しい都内であっても看護師は5名~10通、医療事務も20~30通の応募はあったものです。

しかし、状況が一変します。別の都内JR駅前立地で内科等、前述の条件等が似通っている7月開業予定のクリニックが4月下旬から募集したところ、看護師が50通以上の応募があり、医療事務はそれ以上を超える応募でした。しかも看護師は常勤希望の割合が高く、医療事務に経験者が多く、書類選考も良い意味で難儀な方ばかりでした。これは自粛要請等もあり経済が一気に冷え込み、求人数が激減していることもあるかと思われます。また今回は、在籍していた医療機関が新型コロナウイルスの影響によって患者数が減り、経営が厳しくなり退職を余儀なくされた、今回を機に引退を早めて閉院した、暇になり希望するシフトを組めなくなった、そして在籍している医療機関の先行きが不安になってきたなどの理由で転職活動を行っている求職者も少なくありませんでした。医療経営はもともと経済不況や間接的な自然災害による影響は受けにくいとされていました。実際、リーマンショック、そして東日本大震災なども被災地以外では大きく影響を受けることはありませんでしたが、今回はそうもいかなさそうです。

税理士だけに頼らず自分で見るということ

クライアント先の病医院共にだいたい前年比1~3割、そして小児科など一部の科は6割の医業収入減となっている状況です。減収となれば減益となりますし、赤字を出すところもあるでしょう。そうなれば当然ながら経営者としては不安感と危機感が増してきます。ギリギリで運営している病医院は別として、体力のある病医院経営者は、ある程度どんぶり勘定であっても問題とはならず、月次の試算表や、決算書さえも見てないケースも少なくありません。しかし、今回ばかりは自院の経営状況を財務の視点からしっかりと自分で把握しながら見直したいという要望が増えています。

経営が厳しい状況の中で、経営相談に来られて口のすることがあるのですが、顧問税理士が何も言ってくれなかった、またはアドバイスをくれなかったと不満を述べられる方がいらっしゃいます。よく考えてみてください。税務がそもそもの専門領域です。税理士試験科目は税法に属する9科(所得税法、法人税法など)、会計に属する2科目(簿記論、財務諸表論)です。経営管理論などといった科目もなく、ベースとなるトレーニング環境がないため個人の力量によってしまうのです。弁護士に経営の運営に関する相談する人は少ないでしょう。ただ税理士は独占業務でもある(公認会計士も含みますが)決算申告の作成のために財務情報を把握していることから、経営の専門だと思うのも致し方ない部分なのだと思います。誤解のないように言えば、経営に明るいとても優秀な税理士も数多くいらっしゃいます。ただし、そういった方に巡り合えるかは運もあるのです。だからこそ、自分で財務諸表から自身の経営を俯瞰できる目を養っておく必要があるのではないでしょうか。
財務諸表アレルギーのある先生は少なくありません。しかし要はコツです。見方のポイントを覚えて、現状と数字を照合しながら何度か見続けていけば案外簡単です。次回お伝えいたします。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

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