今更ですが、私は病医院の経営コンサルティングを生業としています。講演会などに呼ばれた際に、時々懇親会で当院は利益も出ているし、顧問税理士もいるからコンサルティングは必要ないとやんわりと断られることが時々あります。別に私から売り込みをかけたわけでもありません。コンサルティングは相談者からの依頼が起点になるので、売り込みをかけて受注などできるはずもないのは私が一番理解しています。そういった先生方が持つ私の仕事のイメージは、患者が集まらず倒産寸前の病医院に対して、マーケティング手法を駆使しながらV字回復させるといった感じです。自著のひとつ“集患”プロフェッショナル(医学通信社刊)のテーマがそうなので本に引っ張られているので仕方がないのかもしれません。もちろん、それも仕事の一部でもありますが、私のクライアント病医院の多くは、赤字ではなく十分な利益を生み出しています。利益が出ているからと断ってくるような先生にとって、それを伝えると少し驚かれ、どんな相談を受けているのか不思議がられます。
開業以降のキャリアにおいては、大きく4段階にわかれます。第1段階は、開業前後から損益分岐点を超える頃までを言います。第2段階は診療報酬収入年間5000万円の前後から6、7000万円くらいまでです。第3段階では法人成し、拡大か安定か路線が決まります。また収入もピークを迎えます。そして第4段階は継承やリタイアに向けての具体的な準備を行います。それぞれの段階で、それぞれ特有の課題が出てきます。患者を増やすことや利益を増やすことが終着ではなく、人事労務、税務、財務、様々な課題が浮き出てくるものです。その都度、課題を明確にして解決のためのコンサルトを行っていくことになります。
しかし、浮き出た課題を解決することがすべてではありません。ある意味、先に述べたそれぞれの問題や課題は、段階が上がれば経営者も自然と問題や課題として認識できるものです。顕在化した問題や課題というのは、経営者も焦点を絞り行動に移すことができるので、自己解決できてしまうものです。私自身は、コンサルタントの仕事とは、自己解決できないときのコンサルトも大切ですが、潜在的な問題や課題を顕在化させてクライアントに認識していただくことや、起こりうる事象に対して先手を打つということもより重要な仕事だと考えています。
その一つが資産形成に関するコンサルティングです。資産形成は、一瞬でできるものではなく、長い時間をかけて行うものです。例えば、第1段階においては、開業前の事業プランも作り込みますが、同時に勤務医から新規開業すれば収入源が変わり不安定となるので、ライフプランの再考も行うことが必要です。またすでにリタイアメントプランがあればそれに合致するかどうかも考察し、ノープランならばイメージしてみるといったこともします。親族継承であれば、相続対策も必要です。
第2段階では利益が生まれてくる時期です。その利益の使い道を決めていく頃となります。また保障の見直しもかけていきます。第3段階では、利益が最大化してくので、節税対策のために法人化も考えます。その際には個人に財産が残るスキームをつくらなければなりません。この最大化した利益をレバレッジ(てこ)にして、資産を膨らましていくことも可能となります。こどもの教育費などで一番この頃出費がかさむ時期でもあり、ここで資産形成をやるかどうかで将来大きな差がつくところです。第4段階では継承準備、子供への相続対策、不労収入プランの実行となっていきます。医師は長く仕事に携われ、また60歳を過ぎても一般の仕事とは違い高い所得を得られます。ある意味、何も準備しなくても生きるには困りません。しかしながら備えておけば、より自分が思い描くところに近づくはずです。クライアントにとって長く寄り添うコンサルタントでありたいと思います。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一