Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

病医院経営と住宅ローン① (115)


マイナス金利政策の功罪

今年の1月下旬、日本では初めてとなるマイナス金利の導入決定が発表となりました。とはいえ、私たちが預けている銀行の預金の利子がマイナスになるというわけではなく、各金融機関が日本銀行に預け入れている当座預金が対象となります。それによって、日本銀行にお金を眠らせておくよりも、貸し付けや投資など市場にお金を回したほうが良いとの判断をするようになって、その結果として景気浮揚につながるという金融政策の一つです。9月末にその効果の検証が報告されるようなので、現時点では具体的な効果のほどは定かではありませんが、私たちの生活おいては、メリットとして住宅ローンなどの金利がぐっと下がってきているという感触を得ているのではないでしょうか。実際には、イギリスのEU離脱などで世界経済の行先に対する懸念もあって長期金利が下がり傾向の中でのことなので、マイナス金利の効果とも言い切れませんが、相応の影響は及ぼしているはずです。ある銀行では10年固定の金利を0.55%から0.5%に引き下げました、他の銀行でも軒並み0.05%前後の引き下げを実施しています。

何にしても功罪あるもので、マイナス金利導入によるデメリットとして、個人の資産運用に悪影響を及ぼすこともあります。例えば、生命保険業界からは、一時支払いの終身保険について予定利率を引き下げました。また国債などで運用する投資信託商品の運用を停止し、繰上げ償還を実施するとのことです。
病医院経営者も、他人事ではなく個人、法人問わずにその何らかの影響を受けることになります。開業して間もなければ、事業用の借入もあるでしょう。また住宅ローンも抱えている先生も少なくありません。ある程度の年数が経っていればいずれの借金も完済しているでしょう。そうなれば資産の量も増えてくるので、それを投資に回すことに積極的になる先生もいます。また、低金利の時代となってからは、借金を抱えながらも投資に積極的な先生も増えてきました。

返済と投資どっちが得?

医療経営コンサルタントの大切な仕事のひとつに、投資案件の吟味とタイミングを計ることがあります。私の基本的な考えとしては、法人・個人問わずに病医院の経営に好影響を与えるような投資案件を最優先とすることとしています。言い方を変えれば、まったく関連性のない株や不動産、先物などへの投資は、小遣いの中で趣味の範疇で行ってくださいということです。

マイナス金利政策でダメージを受けるのは銀行です。そうなれば融資先を見つけようとします。そこで不景気に強い、また全国津々浦々、安定的な収入源をもつ医療機関が真っ先の営業先ともなってきます。まだ借入金が残っているのにもかかわらず更に融資の話を持ってくるわけです。提示してくる金利が1%未満ですから、タダみたいに感じる病医院経営もいて、投資と絡めた融資の話に興味を示すことも多にしてあるわけです。

またそのタダみたいだと感じると、高金利の時代であれば、余剰利益は全て返済に回そうとしていた経営者の意識が、マイナス金利時代となって利益の一部もしくは大半を投資などに回そうという意識が強くなったりします。前述したように、趣味の範疇であれば、よほど怪しいものでなければ、絶対にやめるべきだと申し上げることはありません。しかも平均的に収入の高い医師は、もともと勤務医時代に購入した住宅ローンも多く抱えていたりするにもかかわらずです。
財務戦略として余剰利益の使い方を明確に定めている経営者は意外と少ないものです。実際には返済に回すのか、投資に回すのか、経営者として悩むところです。では返済か投資かどちらが正解なのでしょう。結論を言うと、「ローン返済に勝る投資はめったに見当たらない」ということです。これは資本市場で考えうるリスクと期待するリターンの経済理論上の関係性から出されたものです。次回、その関係性を説明します。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

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