Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

「診療単価」という聖域 (23)


診療単価をマネジメントする必要性

医業収入をアップさせるには、シンプルに言えば「延べ患者数を増やすか、診療単価を上げるか」です。もともと患者が多くない医療機関であれば、患者を増やすということに関して、私のアドバイスをすんなりと受け入れてくれます。有資格者は、基本的に自分の腕を磨きながら患者を治療していくことが仕事です。よって、人を診る(看る)仕事ですから、単位が“人”である患者数であれば抵抗感は持たないものです。しかし、診療単価について語ると、拒絶反応を示す医療従事者が少なくありません。診療単価となると単位が“円”です。「お金儲けのために医療はあるのではない」といった観念が急に頭の中で発動することで抵抗感を持つのかもしれません。

「儲ける」は、地道に働いて収入を得ることよりも、何か思いがけなく得をする意味で使われるため、継続的に精を出して働き収入を得る意味の「稼ぐ」と言ったほうがよいのでしょう。どちらにせよ、経営するからにはお金を稼がなければ組織を維持できません。医療機器なども新たに投資もできません。ただ、自分のためだけに稼ぐのは「健全経営」とはいえません。患者や職員にその稼ぎを還元できることが「健全経営」だと思うのは私だけでしょうか。そのためにも、診療単価をきちんとマネジメントしていく必要があります。

患者の“モレ”を見つけ、適正単価設定へ

診療単価をマネジメントすることへの抵抗感が減ったとしても、次の関門が待ち構えています。診療単価は、増やし過ぎすると今度は患者が離れます。それが適正なものでなければ、それこそ過剰診療となってしまいます。私の場合は、そこに誤解のないよう、診療単価については“上げる”ではなく“適正化する”と院長へ伝えするようにしています。そして、かかりつけになっている患者に対するオーダー(検査など)の“モレ”を見つけていくようにします。例えば、患者によって血液検査を定期的に行う必要があります。医師によって頻度は違います。しかし、決められた頻度で行えてなければ、これはモレです。“うっかり忘れ”だけでなく、患者への経済的な負担から気が引けてオーダーを出しにくいという理由もあります。とはいえ、患者を管理していくには必要な行為です。また、超音波検査の類も“モレ”ていることはないでしょうか。例えば、高血圧、糖尿病、脂質異常症の患者やそのリスクを抱えている患者に対する、頸部の動脈硬化病変の可能性についてはいかがでしょう。さらに、同様の患者で動脈硬化の程度や高度圧搾の可能性を調べるPWV/ABI検査も“モレ”ていませんでしょうか。

ある内科・消化器科を標榜する診療所では、平均診療単価が4000円前後で推移していました。一般的な内科診療所ですのでメインは生活習慣病です。となれば、診療単価マネジメントを特にしていないと、一般的には5000円前後となることが多いようです。ここの患者数は1日100人を超える月もあり、特にその月は単価が下がる傾向にあります。要するに原因は“忙しさ”です。気にはなっているけれど、検査のオーダーが後回しになっている“モレ”があるのです。そこで、診療単価マネジメントを始めたところ、意外な反応がありました。患者から「先生は検査しないのかと思いました」と言われたそうです。特に異常は発見されませんでしたが、感謝されたということでした。安心が得られたからでしょう、その後パートで臨床検査技師を雇用して“モレ”をなくし、適正単価となりました。主訴がなくても、患者の罹患のリスクを踏まえていてオーダーを出さないというのは、“モレ”なのではないでしょうか。
標榜科や同一標榜でも専門性や所有する医療機器、薬の処方の有無によって適正単価は診療所によってまちまちです。念を押しますが、過剰診療を推奨しているのでは決してありません。患者にとっての“モレ”を再検証して、自院の適正な診療単価を設定し、マネジメントしてみてください。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

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