Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

開業後の診療圏調査 (127)


経営悪化の原因の多くは計画の内容にある

病医院経営者から、日々様々な相談が寄せられてきます。経営戦略に関すること、集患(売上増)に関すること、財務に関すること、人事労務に関すること、事業継承や相続に関すること、その他多岐に渡ります。その中でもやはり数が多いのは、開業したけれど思うように患者が集まらず資金繰りが圧迫してきているといった相談です。
他の相談に比べて緊急性も高く、まずは毎月の損益と資金繰りを確認して、現状でどれくらい耐えられるか把握し、現金の支出を抑える対策を打っていきます。それから売上を増やす集患対策に取り掛かっていきます。
このような状況に陥ってしまう原因は、開業する立地が悪い、視認性(施設が見えない)が悪い、地域へのプロモーションが足りないなどいろいろあるのですが、それと同じくらいに多い原因が開業時の計画の失敗です。標榜科、地域の人口、立地、他院との競争環境から、妥当な患者数の伸びを示していたとしても、資金が底をつきそうになっているのです。つまりは同じ売上であっても、最初の計画によっては結果が違ってきます。この場合には、患者数の伸びを読み誤ったこと、そして運転資金の初期の調達量が少なかったとために起きています。悪化している中で貸してくれる銀行は、基本ありません。唯一の頼みは、メインバンクです。各行各様の対応です。元本返済の停止や減額、追加融資、などいわゆる“リスケ”をすぐにしてもらえれば良いのですが、メインバンクが動かないとかなり厳しくなります。そこで開業前に作成した診療圏調査報告書や事業計画書を取り寄せます。この計画で融資をした責任はメインバンクにもありしかも経営破たんしてしまって融資が焦げ付いてしまっては、貸主としても大きな問題です。そこを突破口にして働きかけることもあります。
なおこのような状況にならなければ、開業前の計画を見返すことはほぼないはずです。軌道に乗ってしまえば、もうどこにあるかもわからないということがほとんどです。

今更ながらの診療圏調査

そのどこにあるか忘れてしまった計画段階の書類ですが、診療圏調査報告書については見返してみると、現実との誤差がわかって、興味をもって見ることができるはずです。また興味だけでなく、患者数が減少している、競合医療機関が近隣で開業するなど、情勢が変わってくるタイミングで、その診療圏調査報告書を活かし、より精度があがった予測もすることができます。
そもそも診療圏調査報告書の患者数予測の精度はどの程度なのでしょう。診療圏調査といっても、いろいろなやり方があるのですが、患者数予測の元データは同じです。設定した診療圏の人口と、厚労省から出される対象疾患の受療率(10万人当たりのある1日の受療件数)を掛け合わせて、それを競合医療機関数で割ったものです。違ってくることは、診療圏をどの範囲に設定するか、競合医療機関とのシェア率の設定の2つです。一般的には、診療圏は自院を中心に半径○キロ円とざっくりと設定しますが、実際には、電車や川などで分断されていたりするので単純円ではありません。そこで予測値とのズレが発生します。競合医療機関も流行っているところとそうでないところもあれば、シェア率も単純に按分するわけではありません。そこでもズレてきます。もともと統計なので、前述のズレが少なければある程度の近い数字が出てきます。
開業後ともなれば、実際に来院する患者の居住地がわかるので、地図にプロットすれば自院の診療圏が確認できます。そこから人口を計算し受療率を掛けると診療圏全体の患者数が出てくるので、自院の1日平均患者数を全体で割ればシェアが何割かでてきます。最近ソフトも出回っているので卸業者なども無料でやっていただけたりします。
そこから見えてくる数字もあるので、開業前のもの、最新のもので一度診療圏調査を実施してみてはいかがでしょうか。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

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