Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

病医院経営者の特殊性と財産管理の方向性② (147)


守ることが財産管理の基本

病医院経営者には、①勤労所得者、②純資産の比率が高く額が多い、③生活水準が高い、④教育費が高い、⑤相続対象資産が多い、⑥老後期間が短い、この6つの特殊性(傾向)があると前回お伝えしました。このようなこともあり、病医院経営者は、他の経営者よりも財産管理(資産管理)に注がれるエネルギーが制限されがちです。そこで最も身近な、顧問税理士に相談することが多くなります。しかし、医師にも内科や外科など専門が分かれているように、税理士にも専門分野があり、この分野に明るいとは限りません。もちろん優秀な税理士も多数いらっしゃいますが、税理顧問契約を結んで何年もたつが税理士からこの類の話を聞いたことすらないケースも少なくありません。誤解を招かないように言えば、税理士の先生方が悪いのではありません。そもそも請け負っているのが確定申告であって、資産管理や相続がメインの仕事ではありません。また財産管理を行うためには、通常、弁護士、不動産鑑定士、保険外交員、信託銀行、投資会社など、状況に応じて専門家を交えます。それだけ広い知識を求められ、税理士がカバーできる範囲にも限界もあるのです。

また財産管理においての到達点は、貸借対照表における「資産の部(左側)を優良資産で満たすこと」と「資本の部(右側)を資産ポートフォリオを鑑みてリスクの少ない財務構造にすること」の2つだとこれも本稿で述べています。日本は相続税のある国です。またその税率はOECD加盟国の単純平均値が15%で、日本の55%は1番高くなっています。また出資持分によって所有されている医療法人では、剰余金配当ができず、そのまま何も対策を取らないまま資産が膨らんでくると評価額だけがあがり、現金払いが基本の相続税支払いに苦慮するケースが散見されます。つまり病医院経営者における財産管理とは、積極的に株や先物など投資して資産を膨らますような攻めよりも、実は守ることに力点が置かれているものだと考えて頂くと良いかと思います。

資産の把握が財産管理のとっかかり

財産管理を始めるにあたり、まずは自身の現時点での資産を把握します。その際には、「現預金」、「外貨を含む有価証券」、「保険金」、「年金」、「出資持分や自社株」、「車や美術品等の資産性のある動産」、そして所有する「不動産」の各評価額を算出します。次に各資産における負債額(借金)を併記します。つまりは、個人版の貸借対照表です。2つの到達点の一つ目「資産の部(左側)を優良資産で満たすこと」とある優良資産とは、上記のそれぞれの資産が、新たな資産を生み出しているもの、もしくは価値が安定的に保持もしくは上昇しているものです。例えば、有価証券や投資用の不動産物件などは利回りがきちんと出ているようであれば優良資産です。また所有する土地などの不動産も、その評価額の推移や、流動性(売れるかどうか)で判断できます。

資産は偏りがあるほどリスクが高くなります。例えば資産のほとんどが株のような有価証券であれば、リーマンショックのようなことが再び起きればいっきの資産が目減りしてしまうことになります。また不動産に偏っていれば、いつバブルの再現とも限りません。預金も1つもしくは2つ程度の銀行に預け入れしていることは少なくないですが破たんを想定すればリスクです。よって資産を分散させることでリスクを下げることになります。
これら資産を形成するうえでは元手となる資本が必要です。それが自院から生み出した利益(役員報酬)でもあるし、各資産からの利回りもあります。もちろん借金によって生み出された資産もあります。つまり自己資本と負債のバランスでリスクを評価します。これが2つ目の「資本の部(右側)を資産ポートフォリオを鑑みてリスクの少ない財務構造にすること」です。このようにして、2つの到達点としての、いわば“とっかかり”で現在地点を把握しただけのことであり、どの方向に進むべきかプランニングし、実行、評価、そして改善することこそが財産管理となるのです。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

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