Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

プロは決算書のどこを見ているか?③ (141)


付加価値とは組織が生み出す成果物

労働生産性という言葉を1度くらいは耳にしたことがあるかと思いますが、具体的な説明を求められると、少し困ってしまう言葉の一つではないでしょうか。説明に際して2つに分けて考えてみます。まず「生産性」とは何でしょう?これこそ言葉として聞いたことがあり、なんとなくその意味も頭の中で吸収してしまうのですが、実はこの定義を知らないことが多いのです。

「生産性」とは投入する資源に対してどれだけ算出できたかの比率を意味します。投入資源(Input)に対して成果物(Output)の割合が大きいほど生産性が高いということになります。よって生産性=成果物÷投入資源です。これに労働者一人あたりに生み出される成果、もしくは時間あたりに生み出される成果の指標としての指標が労働生産性となり、式で示すと「労働生産性=労働による成果物÷投入した労働量」となります。ここで“労働による成果物”という概念の理解も必要となります。成果物というと製造業ならば成果物なので出来上がった製品をイメージされるかもしれません。サービス業ならば提供するサービス、医業ならば医療そのもの、そう考えるところですが営利組織において(民間の医療機関もその一つとして捉えておきます)は、その対価となり売上高から売上をあげるために外部から調達した原材料、仕入原価、外注費などの外部からの調達金額を差し引いたものになります。財務会計の世界では、これを「付加価値」と呼びます。よって、「付加価値」には人件費や外部調達とならない賃料、支払利息、減価償却費、租税、その他一般管理費、そして税引き前利益で構成されます。組織はこの付加価値を生みだすことで成り立っているともいえるのです。

付加価値の計算式は、複数あります。代表的なものとして控除法と加算法があります。控除法では、売上高から非付加価値つまり、原材料、外注費、保険料などを差し引いた額となります。加算法は、税引き後純利益、人件費、賃借料、支払利息、租税公課、減価償却などの合計値です。今回は、控除法で考えていくので、「付加価値=医業収入-(医薬品費+医療材料費+委託費+外注費)とします。

労働生産性と労働分配率で生産性を読む

決算書から読み解くポイントとして、前々回の連載では安定性、前回は安全性をお話ししました。今回は生産性です。生産性を表す代表的な指標として、「労働生産性」と「労働分配率」があります。前述した労働生産性を別の表現を用いれば、労働生産性=付加価値÷職員数」となります。

またもう一つは「労働分配率=人件費÷付加価値」となり、付加価値に占める人件費の割合です。労働生産は高いほうが、組織の収益性も高くなります。労働分配率は逆に高い時には労働効率が悪いという判断になります。とはいえ、それはでは高いからといって単純に下げろという単純な話でもありません。付加価値を同じくして労働分配率を下げるには、人件費を削減する必要があります。そのためには、一人当たりの人件費を減らすか、職員数を減らすかしかありません。報酬が下がれば職員の士気が下がります。職員数を減らせば、一人にかかる負担が増えて現場は忙しくなりこちらも士気に影響します。これは労働生産性も同様なことが言えます。
よって適正な人件費と人数において職員の士気やスキルを上げることで、付加価値もあがっていくことになるため、経営者はそのバランス感覚を求められることになります。まずは、そのバランス感覚を養う第一歩として自院の過去からの推移をみてみることから初めてみてください。
なお病医院経営においては、職員数の設定を単純に全員の常勤換算で良いかという議論があります。医師一人の増減と他の職種の職員の増減ではが売上に与える影響が違います。よって、医師一人当たり(年・月・単位時間)の診療報酬額やその他職種ごとなどの指標も加味しながら評価していただくのも一考です。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

CONTACT

お気軽にご相談ください