Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

診察室の前に行列をつくる経営 (19)


行列を演出する一般企業

日本人は行列好きだといわれます。だからといって、行列(に並ぶこと)自体を好んでやるわけではなく、当然行列の先にある「そこで得るもの」を望んで待っているからこその行為です。よって、待つことで失う時間を超える価値がそこにあるから行列ができます。だから、人は「行列ができている=それだけ価値のあるものを提供している」と連想するものです。そして安心感が生まれます。その逆もしかりで、ガラガラのお店には少し不安を覚えしまうものなのです。

このような人の心理を利用してある店では、あえて客の回転を遅らせて行列をつくったり、お店側が雇ったサクラを並ばせたりして集客しているケースもあります。また、ある新装開店したラーメン屋では、一杯100円のオープニングセールで客の注目を集め、行列を意図的に演出することで、行列して食べた人ではなく、たまたまそこを通っただけの人であっても、この“行列”が頭の中にインプットされ、ラーメンを食べたいと思ったときにそれが思い出されて足を運ぶきっかけになるようにしています。行列が話題になればクチコミも発生します。
物を動かす際に一番エネルギーを必要とするのは物を動かす瞬間で、その後は慣性で動くのでそれよりも低いエネルギーですみます。実は集客でも物理の法則と全く同じことがいえ、新規の客を集めることが最も手間もコストもかかるものなのです。結局いくら人を満足させるだけの価値を提供できたとしても、最初にそれを人に感じてもらわなければ“次”がありません。企業はこのようなプロモーションも交えながら集客しています。

行列と効率的な経営

サービス化している現在の病医院経営において、医療機関側も患者から選ばれることを意識するようになりました。そうした変化の中で健全経営のためには一定の行列が必要となります。行列ができていることは、常に待っている患者がいるということで、高稼働を維持でき経営も安定します。そこで、この“行列心理”を医療機関でも使わない手はありません。といっても、急性期医療にはそぐわないので、慢性疾患を中心に扱う診療所や病院の外来部門、美容や不妊などの領域の話になりますが、いくつか例を挙げていきます。

通常、患者のプライバシーも考慮してクリニックでは内部を極力見せないようにしますが、ある新設の整形外科クリニックでは待合室とは別に外部から見えるガラス張りの待合スペースを設置しました。そこに患者が集まることで、待合室が溢れかえる患者数よりも少ない人数で「行列のできるクリニック」ということが演出でき、計画よりも早い立ち上がりの一助となりました。
また、最近では携帯電話やスマートフォンで診察予約や現在の待ち人数を確認できるシステムが低価格で提供されています。それを利用して、ある小児科では、待ち人数を可視化することで“行列”を演出しました。小児科の場合は、どこの医療機関を受診するのか決めるのは母親です。子供のことですからより安心感を求めます。“行列”がその安心感を満たし、さらにこのシステムを利用すれば、自分の番になる直前に待合室に入っていればよく、“行列”していても実際には待つ必要がないので感染のリスクも軽減できます。
不妊治療を行うあるクリニックでは、初診の予約を入れたときに何カ月待ちになるかにとても注意を払います。もともと待つことが評判となっているところですが、そうはいっても2カ月を超えると患者は他のクリニックに流れてしまいます。逆に予約を入れてすぐに受診できたら不安を覚えて逆効果になることもあり、診療に穴が開いてもすぐに予約は入れません。
最終的には行列を維持するには患者の満足する医療を提供することが当然必要ですが、行列心理を意識することで効率的な経営を行えるのではないでしょうか。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

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