ゆとり世代の医師がそろそろ医療の現場にウンテン(研修医)としてやってきます。実際には、そこから臨床の最前線で腕を振るうまではまだ何年も先になりますが、いずれにしてもこの世代が中心となる日は必ずやってきます。それまでオーベン(指導医)は、指導の中で「最近の若者」との考え方の違いに頭を抱えることでしょう。しかし、ジェネレーションギャップというものは人類創世から今の時代まで脈々と存在し続けているものです。時代が変われば環境も変わり、考え方ややり方もそれに合わせて変わってきます。私も新人類とか団塊ジュニア世代とくくられて、「最近の若者」の頃にはいろいろと言われてきたものです。病医院経営の世界では、この団塊ジュニア世代が参入してきています。団塊世代からの代替わりも進んでいます。
ところで、経営者には研修制度というものがありません。以前は皆、同様に経営者としてはウンテンレベルの知識量と経験値で開業していました。昔はそれでも開業当初から待合室が患者で溢れかえっていました。団塊世代の頃はウンテンレベルであろうがなかろうが、医療と気合と努力で経営ができた時代だったのかもしれません。しかし、これだけ医療機関が増え医療をひとつのサービスとして捉える人が増えている現在においては、そうも言っていられない経営環境になってきています。とはいえ、経営を指導するオーベンも、臨床研修制度のように自動的に組み込まれる研修制度もありません。多くの先生が今でも、“その”レベルの経営をしているのが現状です。
仕事柄、失敗事例を多く見てきました。競合医療機関がひしめく場所や、人がほとんど通らない奥まった住宅街で開業してなかなか患者が集まらなかったり、開業後まったくといっていいほど稼動していない医療機器などに最初から過剰に投資してしまったり、患者よりもスタッフが多くなるくらいムダに採用してしまい運転資金が回らなくなってしまったりと、経営の基本を知っていれば誰でも防げることなのですが、それを知らないがためにミスを犯してしまっていることが大半なのです。
私は「クリニック経営カンファレンス」という定期勉強会を主催しています。対象は病医院の院長先生でしたが、最近の傾向としては開業前の勤務医の参加が増えています。経営についてしっかりと知識をつけて開業したいという先生が多くなってきたことの証拠でしょう。
院長の役割は3つあります。医師、現場管理者、経営者です。団塊ジュニア世代で開業すれば医師としてのキャリアは10年以上です。現場管理者としては、勤務医時代に外来や病棟で看護師やコメディカルなどと接してきて、ある程度の経験を積んでこられていると思います。しかし、経営者の経験値はほぼゼロです。その中で事業を始めるということは、ウンテンがいきなりオペをするのと変わらないくらい危ういもだともいえます。一般のビジネスにおいて個人で起業した場合、1年目の廃業率は40%にもなります。5年生存率は25%、10年目には10%以下になってしまうと言われています。それでも、医療機関は規制された中での開業ですのでそこまで厳しいわけではありません。ただし、開業エリアによってはシビアな状況下におかれることも今では十分に考えられることなのです。
経営に対してしっかりと準備して開業される先生が増えているということは、先に開業している病医院にとっては脅威となるはずです。現状維持は今の世の中では衰退と同義語なのではないでしょうか。自分が経営者としてウンテンレベルと自己認識しているのといないのでは、知識や経験の吸収量がまったく違ってきます。たまにはウンテンの頃を思い出し、初心に返ってみてはいかがでしょう。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一