Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

3匹の子ブタは誰が一番利口なのか? (1)


ふ-けんぜん【不健全】
①健康的でないこと。「-な生活」

②精神・思想・もののあり方などが普通でなく、かたよっていること。「-な思想」
(広辞苑より)
「健康」という言葉には、「病気や生理的異常がない」といった消極的な定義付けしかできていないと聞いたことがあります。しかし、糖尿病を患った人すべてが、本当に健康ではないのでしょうか。健康であるにもかかわらず、仕事もせず家に閉じこもっている人のほうがよほど「“不”健康」のように思うのです。
いずれにせよ、人の健康についての定義付けは意外と難しいものです。それは、健康という価値観が人それぞれ違うからかもしれません。実のところ経営も同じで、何をもって「健全」なのかは、あのピーター・ドラッカーでさえも定義するのが難しいと述べています。それこそ、その組織やトップが持つ価値観で定義付けが変わってくるからなのでしょう。

状況や見方、価値観が変われば評価も一変

「3匹の子ブタ」というおとぎ話があります。母ブタに自活を促され、長男がワラ、次男が木、末っ子がレンガで家を建てますが、長男と次男は狼に家を壊されて食べられてしまい、末っ子だけがレンガの家に守られて助かったというのが大筋です。一般的には、3匹の中で一番苦労してレンガの家を建てた子ブタが利口で偉かったという構図になっています。彼だけ助かったという結果を見れば、この選択が一番「健全」です。
しかし、状況が変わればその評価は一変してしまいます。例えば、狼が襲う子ブタの順番が逆であれば、もしくはレンガの家が完成すれば攻略が難しいので、完成する前に襲うことを狼が最優先に考えたならば3匹全滅です。また、長男は長男なりに目の前に迫る危機から逃れるため、すぐに身を隠せるワラを選択したならば、さらには次男も次男で限られた時間の中、ある程度の外敵ならば身を守れるという考えの下で家づくりをしていたならば、利口ではなかったといえるでしょうか。
 時間をかけすぎて完成する前に襲われて食べられてしまっていたならば、末っ子の評価もまた違ってきます。つまり、状況は同じでも見方や価値観を変えただけで異なった評価になります。長男と次男が時間を稼いでくれたから末っ子が生き残ったと見れば、2人の兄は末っ子にとってはヒーローです。このように、さまざまな要因で変化する「健全」さは定義しづらいのです。

一方で、何が「“不”健全」であるかは定義しやすいものです。そもそも、無力で知識も少ない子ブタたちを、母ブタが何の準備も戦略もなく危険な世間に出してしまったことは、明らかに「“不”健全」です。外のリスクを知っている母ブタであれば、まずは3人で協力して堅牢な1軒目の家を造り、そこをベースにして2、3軒目を建てていけば、全員が生き残れたはずです。

母ブタにならないために

この場合のように「戦略がなくリスクを負わせた」という「“不”健全」は、どのような状況や設定でも変わらず定義しやすいものなのです。例からも分かる通り、「“不”健全」は「健全」の裏返しではなく、明らかに筋が通っていないことだともいえるでしょう。読者の先生方の病医院でも、経営が知らずに「“不”健全」にはなっているやもしれません。
ご自分では「健全」だと思っていても、当事者が自身について客観的に判断することは難しく、さらに他院との相対的な評価も容易でない中では、そのおそれが十分にあります。

母ブタのポジションはそう、病医院の経営者である院長です。母ブタの行動は子供の自立を想ってのことでした。その想いそのものは「健全」です。しかし、「“不”健全」であることが何かまで考えなかったために、可愛い息子を2人も失ったのです。母ブタにならないよう、自院に「“不”健全」さがないかどうか目を向けてみてください。それこそが、脱「“不”健全」経営なのです。

株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

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