前回、ユーザビリティテストと称して自院へ受診するまで導線(例えば、ネット検索からホームページへのアクセス、Webでの予約)を患者目線で体験することによって改善する方法をご案内しました。多くの人はどうしたって主観的に物を見ることを優先しがちです。であるからこそ、自身を客観視する機会を設けて見つめ直すということは大切です。経営コンサルタントという仕事柄、自分の病医院を客観的に評価分析して欲しいという依頼が入ります。これも第三者による客観的な評価方法です。ただ何か大きな問題など抱えていなければ、誰かに頼むまでの必要性はないはずです。そこで自分自身で自院を見つめ直す方法をご紹介します。なお特別な知識を必要としない私達も行う経営分析の基本の“き”のやり方で今回はお話を進めていきます。
まず経営分析と言ってイメージされるのは、決算書等の会計データを使った財務分析ではないでしょうか。とはいえ正直、抵抗がある先生も少なくありません。そこで今回、独立行政法人中小企業基盤整備機構がWeb上で公開している自己診断システムを利用します。当該システムでは決算書に記載された会計情報を入力すると、中小企業庁主導で開発された中小企業信用リスク情報を集めた財務データを元に業界比較ができます。また自社の強みや課題の把握や、収益性、効率性、生産性、安全性、成長性の5項目について経営状態を点検することができると謳っています。借金返済不可となったいわゆるデフォルト企業と比較することで倒産リスク評価も可能です。ちなみに無料です。
※「経営自己診断システム」http://k-sindan.smrj.go.jp/crd/servlet/diagnosis.CRD_0100
分析結果も財務会計の知識がない人でも直感的にわかるよう、随所に工夫して作られています。また業種内で自院がどのくらいの位置にいるのかも、把握できるため簡易的なものとはいえ、客観視するには良い資料となるはずです。
平時、つまりは利益も出ていてキャッシュフローも問題ない場合に敢えて財務分析しようとはなりにくいはずです。ただ自分は健康で普通に生活できているからと言って、健診は不要でしょうか?そんなことはないはずです。身体のリスクを早期発見できる可能性は、定期的にかつ客観的に観察してる人のほうが明らかに高くなります。また健診だけではなく、例えば身体を鍛えていたならば、体脂肪や筋肉量などもチェックしていれば、自分の身体の状態を客観的に観察でき、身体をコントロールすることも可能な状態です。
定期健診しかりで財務分析によって収益性、効率性、生産性、安全性、成長性の全てもしくはいずれかを高め高水準で維持することができれば健全な筋骨隆々の力強い組織となっていきます。毎年度ある決算(確定申告)が、まさに自院を客観視することで、定量的にどれだけ良く(悪く)なったのかを経時的に把握する機会と言えます。しかしながら、よくわからないということもあって、みすみすその機会を逃している経営者は少なくありません。財務分析をする際には、ある年だけの単年でその数字だけみても得られる情報は多くありません。業界内の他院(他社)や過去の自院と比較することでより意味があるものとなります。
財務分析の他に客観視するための経営分析手法としてよく利用する代表的なフレームワークが、SWOT分析と呼ばれるものです。本連載でも取り上げたことがあるので、聞いたことある方もいらっしゃるかと思います。内部環境を客観的に捉えるための自院のStrengths(強み)とWeakness(弱み)、そして自院を取り巻く外部環境におけるOpportunity(機会)とTreat(脅威)それぞれの頭文字をとってSWOT分析と言います。客観視する時のコツの一つとして、客観的に見るため定められた視点(評価基準)を持つことにあります。次回、その定められた視点について解説します。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一