Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

キャッシュレス決済導入を議論するとき(219)


ワクチン狂騒曲下での料金設定

インフルエンザワクチン接種の需要が例年にない動きを示しています。10月末に定期面談で伺った小児科クリニックでは、10月某日0時より予約を開始する旨をホームページにて事前告知をしていたところ、初回入荷分1300回の予約枠は2日足らずで埋まってしまいました。ホームページのアクセス数をみるとその提示された時間前からアクセス数が急激に伸びており、予約時間も開始時間の0時ジャストから秒単位で各予約が埋まっています。インフルエンザワクチン狂騒曲状態です。現場からの混乱の声も多く聞こえています。予想通りとはいえ新型コロナウイルス感染症の影響がこのような形で出ています。例年、ワクチン接種を行う医療機関では、秋口の定期面談時に必ずその料金設定を含めたワクチン接種について、感染拡大防止の観点を踏まえたうえで、毎年の流れ作業になりがちなところを医療経営におけるサービスメニューとしての意味合いを持たせるために、経済・集患の観点や運営における観点、サービスの一環としての観点などを考慮しながら料金、量、受入体制などについて方針を決めていきます。

この機に来院促進を図りたいクリニックは例年では、近隣相場より少し料金を引き下げたりします。しかし今年はこのような需要拡大の動きは予想できていました。来院促進を図りたいクリニックは開業間もないことも多く、ワクチン確保量も急激に増やすことが難しい状況もあり、積極的に引き下げることはしていません。ここ最近は、積極に集めたいという意図を持つ値付けであれば成人1回税込み3,000円未満で設定することが多くなります。だからと言って2,980円にすれば料金自体に商売っ気がでてしまうこともあり2,800円あたりで設定していました。このようなクリニックでは普段は患者数もそれほど多くないため1日何十人と増えるワクチン患者を受け入れる体制としては十分ではありません。そんなこともあって今年はある理由もあって3,000円としているところが増えました。

効率化という視点からの導入議論

その理由は、大幅な値上げは便乗値上げと受け取られてしまいかねないこと、そして端数をなくすことでつり銭のやり取りを少なくしつり銭準備の負担もありません。感染拡大防止にもつながります業務の効率化につながる料金設定とも言えます。ただこれはあくまで現金取引が前提の話です。

キャッシュレス決済が業者の大々的なキャッシュバックキャンペーンや、スマホなどの使用できる端末も増えたことで日本でも普及し始めています。感染予防の観点から利用者は増えていると言われています。医業分野では、自費中心の医療はすでに導入が広がっており、また大学病院や総合病院など自動精算機の普及に伴い、キャッシュレス決済の利用も進んでいます。一方でプライマリケア中心の市中クリニックでは、これまで導入の議論にまでも至りませんでした。ネックはキャッシュレス決済にかかる手数料です。クレジットカードやSUICAなど交通系は3~4%、QR決済は、大型キャンペーンを張ったPayPayなど一部について期限付きで手数料なしとなっていますが、2~3%を予定しています。無駄なコストと考えてしまうのも当然です。例えば月間診療点数が10万点の場合、一般的な内科であれば25%程度が窓口収入であり、それがキャッシュレス取引対象となります。仮に手数料が平均3%として窓口負担のある患者全員が利用した場合、75,000円が手数料です。単純に考えればコスト増ですから導入見送りです。一方で業務効率が図れて仮に人工(ニンク)換算で0.5人減少できるならば、0.5人分の人件費で十分賄えてしまいます。
実際には現時点では利用はごく一部に限られるので手数料はわずかでしょう。よって人工換算も半減できるかも不透明で正確には効果はわかりません。ただ人不足が進むこともあって効率化は重要なテーマです。そういった視点から導入を検討するクリニックも増えているのも事実です。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

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