Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

リスク回避のポイント (102)


開業における成功の定義とは

開業しても開業計画通りに患者が増えず、資金も底をつきかけたクリニックを立て直すストーリー仕立ての自著「“集患”プロフェッショナル」に続き、今年1月にはシリーズ本ともなる「“開業”プロフェッショナル」を上梓させていただきました。前著がクリニックのマーケティングがテーマで、本著は開業すること自体がテーマとなります。

前著を出版した動機は、クリニックに特化したマーケティング領域の参考図書が見当たらなかったことにありました。しかし、本著「“開業”プロフェッショナル」の出版においては、開業におけるノウハウが書かれている良書は存在していました。とはいえ、よくよくみれば「成功する○○」などタイトルに「成功」という単語が踊る本が多く、そのことに違和感を覚えたのが出版のきっかけでした。
それは開業後の「成功」とは何ぞやということです。毎日100人以上の患者が来院して、院長1人で診続けていくことが開業の「成功」でしょうか。しかし、経験上、必ずしもそんな先生ばかりではなく、少ない診療日数でそこそこの利益が出せていればそれで良いと考える先生もそれなりの割合でいらっしゃいます。つまり「成功」の定義は人それぞれです。仮に年間の純利益で1億円以上の大きな利益を得ることが「成功」と定義するならば、そのような医師のみをターゲットとする開業本の良書は、私の知る限り存在しません。その規模の純利益となれば、病床を有する病院を開業するか、自費診療、手術専門クリニック、透析クリニックなどに絞られてきます。これらは一般的には、大きな利益を得られる前に、大きな投資をしなければなりません。つまりハイリスク・ハイリターンとなってしまいます。
しかし、世の中のほとんどの医師は、プライマリケアを中心とした診療を行うローリスク・ローリターンの開業です。そうなるとニーズの大半は大成功を目指すより、まずは失敗させないことにあるのだと考えました。

リスクを回避する4つのポイント

開業するにあたっての失敗とは、開業できないことではありません。いまどき医療関連の卸やメーカー、税理士、ハウスメーカー、開業コンサルタントなど誰かしらが開業を手伝ってくれるので、開業ができなかったという失敗は想定できません。つまりは、開業後、患者が集まらずに資金が底をつき経済的に存続できずに倒産すること、もしくはギリギリ存続できたとしても経営者としてやることが多くて拘束時間も増え、余計なストレスもかかるようになったにもかかわらず、勤務医時代より収入が極端に下がってしまうことが開業における「失敗」と定義付けました。そこで本著は、失敗となるリスクを回避する次の4つのポイントについて盛り込んでいきました。
①信頼できるパートナーを選ぶ
②失敗しないためのセオリーを知る
③ダマされないために相手の利益構造を理解する
④失敗しないキャッシュの流れを常に想定する
本連載は病医院経営がテーマであり、開業するためのノウハウはテーマから外れてしまいます。ただ実はこの4つのポイント自体は、病医院経営においても適用できるものとなるのです。開業でも経営でも、多くの利害関係者が関わり、相応のお金が動きます。つまり、ビジネスの世界にどっぷりつかることになり、そこで彼らは彼らの理由で自分のビジネスを仕掛けてきます。経営においても個人においても特に医師は富裕層とみられるため、いろいろな思惑を持った利害関係者や“利益”関係を作りたい人たちが押し寄せてきます。すべての人たちを遮断することが一番のリスク回避かもしれませんが、ノーリスクにはリターンも生まれませんし、ノーリスクで生きていける環境などそうそうにありません。自分にはリスクは降りかからないと思いたいのは人間の性なのかもしれませんが、リスクに備え、それを回避する手段を考えておくことも経営者の仕事です。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

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