Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

開業後からの舵取り (91)


開業した後でも戦略は変えられる

クリニックの経営者は、大きく分けて、2つの思考パターンに分かれます。それは、医療経営で、“戦略”を意識しているか、意識していないか、です。戦略を意識している医師ほど、地域の医療ニーズを明確に捉え、かつ、そのニーズに柔軟に対応し、そのうえで自院の専門領域である強みを追求し、実行しています。一方で、まったく意識していない経営者も少なくありません。

眼科や皮膚科などいわゆるマイナー科の場合は、独自性を出しやすいということや、自費の適用範囲も広がることによって、比較的戦略を意識する機会が生まれます。しかし、プライマリケアを中心とする内科は、戦略を競合他院との差別化を打ち出しにくいこともあって、結局、意識する機会がなくなくなってしまいがちです。

とはいえ、内科系でも、開業後に経営戦略を強く意識していくことで医業収入は変わっていきます。例えば、人通りの多い商店街に面した立地で開業し、10年経っても一日平均来院患者数20人ほどのクリニックがありました。患者が増えない原因は、周囲に競合が多すぎたからです。そこで、ターゲットを喘息など呼吸器疾患を患う患者に絞りました。逆にいえば、生活習慣病など一般的に内科でターゲットとする患者は、“捨てる(外す)”くらいの絞り方です。
また、親からクリニックを引き継いだ循環器科内科の医師は、患者も親から承継しており、かなり高齢化していました。借金がないため、これ以上売上を増やす意義も感じていません。ただし、周辺の新規関業により競合他院が増え、患者数が減っていく可能性がありました。そこで、特定疾患療養管理料が算定できる社会保険適用の患者にターゲットを絞り込みます。社会保険ですので、現役で仕事を持つ(会社勤務の)世代の生活習慣病患者が対象です。結果として、毎月定期で来院する、医師と同世代の患者の割合が高くなりました。患者とともに医師も歳を重ねていくので、自分の代の経営は安泰になったと話していました。
他のケースとして、昔ながらの内科・小児科ですべて診るというスタンスで開業した医師は、一日平均100人以上の外来患者を診ていましたが、途中から糖尿病患者に意識を集中させました。患者数は10~20%減少しながらも、医業収入は150%以上伸ばしています。

制度変更に追従する戦略変更

ある医師は、開業して2年も経たずに、何度も戦略を修正しています。内科を標ぼうしていましたが、開業後半年経っても患者が集まらず、気持ちは撤退に相当傾いていました。そこから、小児科にもターゲットを広げるなどして、感染症医療の需要を取り込み、一時的にではありますが、医業収入を上げていきます。さらには、訪問診療にも力を入れて、難局を乗り越え、経営を軌道に乗せることができました。現在は、訪問診療に比重を置いており、賃料が高いこともあって、移転先を探しています。

その最中、2016年4月をめどに、訪問専門の診療所を認める方針が厚労省から出されました。診療所では、外来患者に対応するため、9.9㎡以上の診察室やレントゲン装置などが必要ですが、訪問診療に専念できる環境を整備するため、これらの要件が緩和される見込みです。これは、在宅医療を後押しすることにより、病床不足への対応や膨らんだ医療費の抑制を目指す地域包括ケアシステム構築の流れにも組み込まれています。超えるべきハードルとなる要件も含まれていますが、外来施設が不要になりうるということで、この医師は、今まで移転先として候補にあげていた不動産物件を白紙にしました。来年度の要件緩和を見据え、戦略の変更を再検討することになっています。
進化論を唱えたダーウィンは、強い者、賢い者が生き延びるわけではなく、変化に適応した者が生き残ると唱えています。経営も適者生存なのかもしれません。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

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