医療の世界ではほとんど使われない言葉があります。「法則」です。ビジネスの世界において、さまざまな法則が出回っています。なんちゃって法則から、経験をベースにした法則、確率的に証明されている法則まで枚挙にいとまがありません。書店のビジネスコーナーでも「○◯の法則」と謳った本が散見され、自己啓発コーナーでも同様です。20年前くらい前に流行した「マーフィーの法則」を覚えている方も多いかと思います。「落としたトーストがバターを塗った面を下にして着地する確率は、カーペットの値段に比例する」や「洗車をすると雨が降る」など都市伝説的なもので、科学的とはいえないものが多かったと記憶しています。私的マーフィーの法則の使い方は、洗車してたまたま雨が降ったら、マーフィーの法則だと思うことで、やりどころのない怒り(?)を抑えることができます。「渋滞時にレーンを変えると元いたレーンが進んだ」ときも便利(!?)です。
マーケティングの領域にもさまざまな法則があります。前述のマーフィーの法則よりも統計学的に処理されることが多く、それを平たく表現していたりします。代表的なものといえば、「2:8の法則」です。もともとはイタリアの経済学者が、2割の国民に国全体の8割の富が集中していることを発見しました。いくつかの国でもほぼ同じ傾向を示しているというのです。この割合がさまざまな事象にも当てはまることが分かってきました。ほかにも以下のようなものがあります。
・顧客の上位2割で売上全体の8割を占める
・全商品項目の2割で売上全体の8割を占める
・2割の社員で8割の仕事をしている
・失敗理由の2割で失敗発生件数の8割を占める
法則とは厳密性ではなく、目安として活用するものなのだと思います。だからこそ、科学的なエビデンスをベースにする医療現場で「法則」という言葉は使われないのかもしれません。とはいえ、何をすべきなのかという指針になり、知っておくと意外に有効なものが多いのも事実です。
この「2:8の法則」からは、2割で8割もの影響を及ぼすということを理解すればよいのです。つまり、2割の努力が8割の結果を生むのです。例えば、急性期病院において現在は、地域の医療機関から多くの紹介を受けています。この法則からすると、紹介総件数の2割程度の医療機関で総件数の8割を占めるということになります。実際には特殊なケースでない限り、1:9~3:7の幅で必ず落ち着きます。となれば、紹介件数上位2割の紹介元医療機関についてしっかり連携を取れば、8割もの紹介患者を送ってもらえることとなるのです。
個人診療所でも活用できます。病名などでランキングすると、やはり2:8の傾向が出てきます。つまり、2割の疾患の患者をターゲットに絞っていけば8割以上の成果につながるのです。
医療事故やミスの防止にも、この2:8は実際の現場で役に立っています。2割に集中していけば、まず8割のミスを防げるという理屈です。QC(品質管理)活動にもパレート分析(ABC分析)といった呼び名で利用されています。
医療事故防止と「ハインリッヒの法則」というものがあります。数千件もの労働災害を統計学的に調べた結果、1件の重大な事故の背景には、29件の軽微な事故があり、さらには300件のヒヤリ・ハット(事故につながらないがヒヤっとしたハッとした事象)が起きていたというものです。
経営戦略論でも有名な「法則」があります。「ランチェスターの法則」です。そこには「弱者の法則」と「強者の法則」があります。経済的規模的弱者とは中小病医院です。強者とは地域中核病院となります。弱者が強者と共存し負けずに渡り合っていくためのヒントが満載の「法則」でもあります。地域中核病院と同じことをしても勝ち目はありません。物量で圧倒されるのがオチです。ほかにも使える「法則」が存在します。
「法則」を活用してみてはいかがでしょうか?
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一