Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

オ・カ・メ・ハ・チ・モ・ク経営!? (7)


傍目八目

将棋をしていて次の指し手に窮しているとき、それを傍で見ている人から助言されることがあります。局面を的確に捉えたとても良い指し手である場合が多いものです。また、反対に自分が傍から対局を眺めている際にも、自分で指しているときには思いつかないようなアイデアが出たり、いつも以上に先が読めたりします。これは、将棋盤をどちら側に立つということもなく俯瞰することができ、感情に左右されることもなく、冷静な目で盤の局面を捉えることができるからです。そうした状況から生まれた言葉に、「傍目八目(おかめはちもく)」という四文字熟語があります。もともと囲碁用語で、碁の対局をそばで見ているときの方がより見通しが利き、また形勢が読め、対局者よりさらに八手先まで手が読めるという様子が語源となっています。

今、私には二つの立場があります。医療経営コンサルタントであり、会社の経営者でもあります。経営コンサルタントのときには、まさに「傍目八目」の利を生かすことになります。それが実は自身の経営にも活きることが多数あるのです。クライアント先にアドバイスしているコンサルタントとしての自分の言葉によって、経営者である自分がハッとすることがあるのです。クライアントのふり見て我がふりが直せるわけですが、経営者としてはとても恵まれた環境にあると思います。
しかし、病医院の経営者となると、なかなか傍観できる立場にはなれません。コンサルテーションの機会もありません。だからこそ、ある病院の理事長は良いと聞けば積極的に全国の医療機関や企業などを視察して回っていますし、外部セミナーに参加している先生もいらっしゃいます。もちろん、我々のような外部のコンサルタントを活用することもあり、客観的な意見や視点を自分のものとしていますが、他人からのアドバイスを受ける以外にも自分で客観視できる方法があります。

客観視する四つのコツ

まずは『数字』に落とし込むことです。数字は事象を客観的に捉えることができます。だからといってヤタラメッタラ数字を並べるのではなく、客観的な判断材料となる自分にとって必要な数字をつかむ必要があります。

次に『目的』を明確にすることです。人は自分のことになると冷静でいられなくなるものです。そうしたときには、「そもそも論」を自分に問いかけます。「そもそも何のために」とか「そもそもなぜ」という原点に自分の思考を連れて行くことで、意外と冷静になれ、誤ったり見失っていたりした方向性を正すことができるようになるはずです。
あとは『立場』と『時間』です。『立場』とは、その人の地位や置かれている境遇です。院長であれば、勤務医の頃の自分のコスト意識と今とでは全く違っているはずです。例えば、必要もないのにコピーをしている職員がいたらイラッとするはずです。でも、勤務医の頃にはそういった意識にもならずムダに使っていたのではないでしょうか。また、業務においても働く側の視点と患者側の視点では違ってきます。つまり、その立場になって見ることで客観視できるのです。
『時間』という観点も時として客観的な視点を与えてくれます。局面は時間によって刻々と変化します。経営上の問題についても、どの時点において捉えるかにより対処方法が変わってきます。その場の自分は冷静でいられないことが多いはずです。そのため、今なのか、来年なのか、数年後にかかわることなのかといった時間を通すことで、客観的に物事を捉えることができる場合もあるのです。
このようにして、自分を強制的に「傍目八目」状態に置くことが日常の中でもできます。将棋だけでなくスポーツ中継を観ていても、ああだこうだと言いたくなるものです。自身の経営も中継できたら、より多くのものが見えてくるのは間違いありません。だからこそ、経営の可視化(見える化)が必要なのではないでしょうか。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

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