Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

「想定外」を想定する経営 (33)


トップが使う想定外という言葉の意味

未曾有の大震災からちょうど2年が経ちました。当時、首都圏でも帰宅難民や計画停電、ガソリン不足など、しばらく混乱が続きました。マスコミから発信される情報によって被災の状況が日々刻々と明らかになり、私の考えを超えるほどの被害の大きさでした(です)。その中でも印象に残っているのは、福島第1原発を津波が襲って発生した事故です。ワイドショーなどから流れる映像を見ていても、実際に起きていることと受け入れられず、映画のワンシーンを観ている感覚であったりもしました。

それに関連して、連日の報道の中で1つ違和感を覚えていた言葉があります。それは、“想定外”です。当時の東電社長は会見で「津波の規模は、これまで想定を超えるもの」と話し、また菅首相(当時)も「従来想定された津波の上限をはるかに超えるような大きな津波」というように、流行語よろしく“想定外”という言葉が使われていました。前述のとおり、私たちの想定を超えていたのは間違いありません。しかし、それを専門にしている当事者が使う言葉ではないのではないかと思えてならなかったのです。同じように感じた人も多かったのでしょうか、“想定外”という言葉に否定的な意見を口にする記事や評論も目に止まるようになってきました。
専門家であり、特に扱いを間違えれば危険が及ぶような原発というものを扱っている以上、さまざまなリスクを想定していないわけはありません。事実、相当規模の地震や飛行機墜落までを想定して安全性の確保について進言していたが却下されたという元関係者などからの証言が出ています。“想定外”ではなく、可能性の低さやその対応のコスト面などを考えて、“想定から外した”ということなのです。
個人的には人智を超えた大震災でしたが、被災者側からの立場で見たら、それを考えてくれているはずの経営トップや一国の首相の発言であれば憤る気持ちも理解できます。

ある院長先生の想定外

以前、ある院長先生から相談を受けました。過去に自宅を購入する際にお世話になった不動産会社から薦められた売地を購入し、自分の理想をそのまま形にした建物と高額医療機器を揃え、総額2億円近くの借金をして開業されたということです。しかし、半年たっても1日の患者数が10人にも満たないというのです。運転資金はあっという間に底が見え、当初、看護師と事務職員を合わせて6人いた職員も2人まで減らし、職員の給与を払うために平日の休診日と週末は病院で日当直のアルバイトをしているそうでは、お話からは心労によって疲れ切っているのが伝わってきました。

聞けば、不動産会社の社長に開業のコンサルティングを受けていたとのことです。その会社は医療機関の設立経験はなかったようで、開業計画書も診療圏調査資料など何もない有様です。病院勤務医時代は1日100人近くの患者を診ていたといいます。これほどまでに患者さんが集まらないとは想定外だったというのです。
この話を聞いて皆さんはどう思われるでしょうか? 私の中では想定外では全くありません。土地は定期借地契約にすれば月の支払いを抑えられます。また建物も、将来必要になるかもしれないといって作ったリハビリテーションルームやデイケアスペースを後から増設できるようにしておけば初期費用で3割下がります。医療機器も新品でなくて中古でも良いはずです。入と出のバランス感覚があれば医療機関は立ち上がるものなのです。
常に想定外のことを想定の範囲内にしておくことは、組織を潰して職員や患者さんを路頭に迷わせないための経営者としての責務です。それでも、実際には想定外のことが多かれ少なかれ起こるのも経営です。取っ掛かりとして全てにおいて想定するのではなく、最悪の事態を想定することで大きなリスクを回避または緩和することができるのではないでしょうか。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

CONTACT

お気軽にご相談ください