マーケティングを学んでいると、顧客の囲い込みの重要性についても教わります。初めて取引した客を固定客として囲い込み、利用頻度をあげてもらうことで安定した収入源が確保できます。また情報のない不確実な新規顧客ではなく顧客データの蓄積と分析よって相手のニーズに寄り添った取引も可能となり、経営の効率化も図れます。アメリカの大手経営コンサルティング会社のフレデリック・F・ライクヘルドという人物によって『1:5の法則』、『5:25の法則』というものが打ち出されています。新規顧客を獲得し売り上げをつくるコストは、取引のすでにある既存の顧客を維持するコストの5倍かかると言います。また固定客の流出を5%防げば利益が最低でも25%は改善すると言うのです。企業における顧客を囲い込む戦略の代表例としてポイントプログラムがあります。発祥は諸説あるものの家電量販店のヨドバシカメラが自ら自社が発祥と謳っていて、日本で実際そこから一気に市民権を得ています。航空会社のマイレージプログラムも同様です。
病医院でも囲い込むことの経営的なメリットは、なんとなくでも理解されているのではないでしょうか。プライマリケア中心の市中の内科クリニックの経営の安定は、結局は生活習慣病などの慢性疾患に罹っている患者どれだけ来院しているかです。今年の新型コロナウイルスの感染拡大によって、診療控えによる収入減が深刻な問題となっています。軒並み3月頃から軒並み減少してはいるものの、特定疾患療養管理料(生活習慣病などの慢性疾患についてプライマリケア機能を担うかかりつけ医師による計画的な療養上の管理を評価)の算定数が多いクリニックほど減少幅が少なく、患者が戻ってくる(つまり診療点数の回復)タイミング早くなっています。特疾数の少ない開業間もないクリニックでは、診療収入に占める割合が、新規で飛び込みで来院する感冒症状などの急性疾患をかかえる患者が大きいため、コロナ禍における経営へのダメージも少なくありません。また慢性疾患の患者が少ない小児科では、減少幅も大きく患者の戻りも遅いため、特に厳しい経営環境にさらされています。まさに囲い込むということの経営的なメリットがこのような形で示されています。
なかなか診療収入が伸びないクリニックへコンサルティングを行う場合、まずは資金繰り改善などを行いながら財務面をフォローし、また「新患獲得プログラム」、「来院頻度増加プログラム」、「診療単価適正化プログラム」、「患者離反防止プログラム」によって増収を図ります。「新患獲得プログラム」を除く残りの3つのプログラムが前述した囲い込み戦略と言えるのです。この3つを結ぶ関係性は、一つのワードにまとめることができます。「患者ロイヤリティ」です。ロイヤリティ(Loyalty)とは日本語で忠誠心、愛着心などと訳されますがここでは「受診するなら○○先生のところで」という患者の心理度合いです。
コロナ禍でどうしても足が遠のいてしまっているかもしれませんが、読者の皆さんにも贔屓にしている“行きつけの店”が一つや二つあるのではないでしょうか。その店側からすれば、あなたは固定客つまりロイヤリティ度合の高いお得意様です。ここで店側は何を尺度としているのでしょう。マーケティングにおいては、「利用の頻度」、「消費した金額総計」、「利用した最新の日付」となるのです。ロイヤリティは定量化がこれで可能となります。前述のロイヤリティに関係する3つの増収プログラムのベースはこの尺度を利用しています。
内科クリニックでは、まさに生活習慣病の患者がこれにあたります。また標榜科や専門領域によって、その解釈は異なる部分も出てきますが、不安定なこの時期において、新患を増やすことのみならず、どのようにしたら既存患者のロイヤリティ度合をあげられるのか検討してみてはいかがでしょうか?
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一