Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

生命保険と福利厚生 (105)


法人設立のタイミング

確定申告の時期がやってきました。個人事業者としてご開業されている先生方においては、この時期、税金について改めて考える機会となるはずです。特に利益が出た際の納税額が大きければ大きいほど、もっと節税できないかと考えるのではないでしょうか。その際に頭を過るのが医療法人の設立です。

そのタイミングは人それぞれの考え方によるのですが、社会保険診療報酬額が5000万円を超えて概算経費率が使えなくなったときや所得税の税率が33%となったとき等に、節税のメリットが出てくると考えられるため、具体的な検討に入る先生も多いでしょう。また近年は個人の所得税の税負担率が高くなり、逆に法人に対する実行税率が低くなる傾向にあります。
個人の所得税は累進課税となり、所得が増えるほど税率は上がり、平成27年度から所得税、住民税、そして復興特別所得税を合計した最高税率は55%を超えてきました。逆に法人の実効税率では、平成27年度で約32%、平成28年度が約31%となって、更に保険診療報酬部分にはかからない事業税分を差し引けば30%を切ってきます。
例えば、個人事業所得を3,000万円とした場合には、約1,220万円となります。一方、法人の場合、役員報酬を1,500万円として法人課税所得1,500万円すると、法人税等450万円、そして個人にかかる税金が約386万円で、合計836万円の税額負担となってきます。個人と法人でのその差が384万円になるので単純なる計算上は法人による節税メリットが得られます。
とはいえ、社会保険の加入が必須で法定福利費などやその他管理コストの上昇など、経営的なデメリットも含まれてくるため多方面から考えていくことが大切です。とはいえ、個人ではできない法人限定の節税対策があり、ある程度の所得になってくれば、やはり法人化による節税効果を期待できることには間違いありません。その代表格として、生命保険を使った節税があります。

生命保険による経営メリット

そもそも、なぜ生命保険が節税の効果を生み出すのかといえば、生命保険の種類、被保険者の年齢や契約期間、契約形態や特約によって、その保険料の全額もしくは一部を損金や資産として計上でき、利益を圧縮することが可能となるからです。

長期平準定期保険という種類の加入のケースを例にあげてみます。名前のとおり満期が100歳等に設定される長期の保険となります。死亡保険金額が一定で、また長い期間にわたり高い水準の解約返戻金が存在することが特徴です。この保険料の1/2が損金計上できることや、この特徴を利用して退職金として備えることが可能となります。
例えば、医療法人の理事長が1億円の死亡保険に40歳で加入し、保険料が毎年200万円、解約返戻金が65歳で一番高い水準となり返戻率が100.2%になるように設計されていたとします。その時点で解約した場合には、5,010万円が医療法人に支払われます。その支払済保険料5,000万円の1/2がそれぞれ損金と資産計上され、資産計上分を指し引いた2,510万円が医療法人の雑収入となります。黒字決算となれば法人税の対象としないように、退職金として支払います。退職所得は他の所得と比べて最も優遇されている所得控除があり、在任年数でその控除額が決まってきます。
計算式は「退職金所得税額=(退職金-控除額)×1/2×所得税率」となり、控除額は在任20年以下であれば40万円×年数、在任20年以上で800万円+70万円×(年数―20年)となるので、控除は1,150万円になります。これ以降の計算は省きますが、退職金所得税額は932,500円となり、明らかに節税メリットがでるということがご理解いただけたと思います。しかし、何も節税だけの話ではありません。これは職員の福利厚生の充実にもなります。ただやはり、これらは専門知識が必要となりますので、知識のある人に設計を依頼することが大切になってきます。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

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