Column

不健全経営のすゝめ

※柴田雄一が連載中の『卸ニュース「病医院経営のチェックポイント」(IQVIAソリューションズジャパン(株)発行)を転載した記事となります。

“普通の人”向けのリーダーシップ (38)


順送り人事でのリーダー

病院から科(課)長や係長など役職が付いた職員向けの研修を依頼されることがあります。いわゆるリーダー研修ですが、組織が大きくなればなるほど、院長や理事長など経営者は、組織における中間管理職の重要性を知るのです。総合病院クラスの規模ですと医事課職員数だけでも70人を超えたりします。それは中小規模の病院全体の職員数にもなり、大規模病院の医事課長はその人数をマネジメントしていくことになるのです。人数が多いということは、その分、リーダーの影響力も大きくなります。だからこそ、リーダーとしてリーダーシップスキルを経営者は向上させたいと思うものなのかもしれません。

医療の世界は職人集団です。このような組織形態においては、とかく「リーダー=腕(専門技術の高さ)」となりがちです。それはそれでよいときもあります。しかし、組織として組織を動かすリーダーの資質としては、職人としての資質に比例するということにはなりません。「名選手、名監督にあらず」のごとく、技術水準の高い選手が“必ず”名監督のマネジメント・指導技術を持つとは限らないということなのだと思います。
とはいえ、やはり人の気持ちとしては、現場で活躍した人に期待を寄せることも必然だと思います。そういう実績のある人がリーダーになったときは、周囲の人も納得できますし、リーダーが発する言葉にも説得力があるため、私たちがイメージするリーダー像に近くなり、スタート時はスムーズです。つまり、カリスマ性もあるパワフルなリーダーとしてキャリアを開始できます。
ただ、そうでない人でもリーダーとしてのポストに就くことがあります。政治の世界で当選回数によって決まる、いわゆる「順送り人事」もありますし、前任者が何かの理由でそのポストを外れてしまったりするなど最初から意図してなかった人事もあります。中には、自分はポストを要望していないにもかかわらず、マネジメント力をかわれてその立場になった人もいます。

磨けるリーダーシップスキル

このように、世の中のリーダーは「俺の背中を見て覚えろ」「とにかく俺についてこい」と言い切れるカリスマ性を持った人ばかりではありません。カリスマ性のリーダーシップと、そうでない“普通の人”のそれがあるのです。このカリスマ性というのはスキルではないので、なかなか勉強によって身に付けられるものではありません。しかし、リーダーシップというのはスキルであり、少しの資質がありさえすれば誰でも磨くことができ、スキルアップも可能なのです。

スポーツの世界で大成した名監督や名コーチによる「リーダーシップ」をテーマにした本もたくさん世に出ています。それぞれの独自の理論展開は勉強になります。とはいえ、表現の仕方は違っても、その原理原則は大きく変わることはありません。しかしながら、“普通の病院”での“普通の人”向けの研修では、そのままそれを伝えたとしても反応が薄くなったりするのです。プロスポーツの監督の部下や指導対象者は、モチベーションも高い一流のアスリートです。しかもスポーツにおいては、「勝つこと」という目的が明確で、成否もすぐに出ます。練習にせよ試合にせよ、自分の行動と結果が連動しやすいものなのです。
一方、“普通の病院”の一部門において、何が勝ちなのかなどということは明確になっていません。そもそも勝敗などはないのかもしれません。つまり、勝ち負けという明確な目標も、何点差で勝負がついたなどという明らかに帰結する結果も病院内にはないのです。となれば、行動と結果が連動しにくく、評価しようとしても評価期間がとかく長いものとなり、人の関心も集中させにくく、モチベーションを高めたり維持したりすることも難しくなります
だからこそ、“普通の人”向けにリーダーシップを磨く機会をつくることは、健全経営に寄与できる大きな鍵の一つだと思う今日このごろです。
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一

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